鳩時計

2006-05-27 19:40:38 | 悲しい

口髭に 丈のながい白い帽子を 目深に
被ったパンやのおやじさんが 鐘を鳴らす 
甘~い パンの焼けた匂いが 窓から
其処かしこから 道に 広場に 溢れる

陽気な暮らしが いつも ある
それでも 買えないときも ある
そんな時は 歩きながら 微笑んで
そっと 目で挨拶かわし 通り過ぎる   
 
アパートの部屋にもどると 窓をあけ
バルコニーから しばらく 通りを見下ろす
小さなイスに もどかしく身を納める 
外は陽気だ 日暮れには まだ少しある

こどもが母親の手を引き 楽しげに走ってくる
老婆は 身振り大きく なにかに怒り なにかに
笑っては 母親に 優しく話しかけてみせる 
皆一様に パンを買っては抱え 店から出てくる

ドームの鐘が鳴った 風が ひゅーと頬をなでる
妙に寂しい あてどない想いに 空を あおぐ
胸のさけびには 誰にも 聞こえない愛がある
こころ隠せないほどの 愛に締めつけられる

部屋にもどると 階下の口笛が 彼を呼ぶ
粗い 陽気な声だ “お~い ダンいるか!”
彼はもどり 外の手摺に手をかけるが 早いか 
階段を駆け下りる 後ろで鳩時計が狂って鳴る

店を終うのは お手の物さ いつもの様にだ
おやじさんは 手早く働きながら いつもの様に
困ったものさ と嘆いてみせる 店の甘い香りと
山ほどの 見込み違いの売れ残りを 袋に入れて

紅茶を淹れて パンをほお張る 絵筆を走らせる
忙しいが リズムは もう♪お手のものさ パン!
絵筆 手を拭く パン! 紅茶♪ 手を拭く パン!
甘い香りに 甘い想い 夜更けに時計が鳴り続ける

コメント
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