ゆっくりと世界が沈む水辺で

きしの字間漫遊記。読んでも読んでも、まだ読みたい。

筒井康隆【旅のラゴス】

2014-03-01 | 新潮社

好んで読む、読まないに関わらず有名な大御所・筒井康隆氏。
ワタクシは熱心な読者とは言えません。
読んだ記憶がはっきりあるものといえば、『時をかける少女』や、読んだ当時は吐くかと思うくらいに気持ち悪かった『家族八景』、『虚構船団』。
そんなワタクシでも読みたいと思わせてくれたこの表紙とタイトルを持つこの本。
『旅のラゴス』。
この中には、どんな旅が描かれているのだろうと、単純に興味を惹かれてしまいました。(まあ、それ以上にソチ五輪に入れ込んでましたが。いまだに真央ちゃん観るたび泣ける…。)

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 旅のラゴス

 著者:筒井康隆
 発行:新潮社
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登場の時、既に主人公ラゴスは旅の途上。
南をめざす旅であることはわかりますが、その目的はどのようなものであるのかはまだ明かされず、彼の旅はなんだか物見遊山とまでは言わないものの、風来坊の旅のようです。
道連れたちと馴染み、さして先も急ぐこともない旅。
キリキリと切羽詰まった少年でもなく、追いつめられ疲れ切った大人でもなく、どこか余裕を感じさせるラゴスは、この本の中の世界を知るにはうってつけの案内人のように思えます。
ウマと共に行くキャラバン。深い緑の森。
人の思いで時空を跳躍する術を持つ世界はどのように成り立っているのか。

無理をして読んだと言えるほどだった『虚構船団』の時の記憶からすれば、あっけないほどの読みやすさです。
もしや、今ならば『虚構船団』も楽に読めたりするのか?!という淡い期待を持ってしまいましたが、たぶん、それは錯覚で、この作品は誰にとっても読みやすく、馴染みやすいものなのだろうと思います。
主人公ラゴスの旅の日々の時間は、順当に流れ、彼は多くの人々と出会い、別れ、様々なものを得、また失いながら、次第に年老いてゆきます。
なんと、オーソドックスな。
けれども、オーソドックスであることが退屈さにつながらない物語としての単純なおもしろさに先へ先へとひっぱられ、その一方で、ラゴスの旅がそのままラゴスの人生であるという重み、そして、ラゴスの人生がこの世界の羅針盤ともなっていく秘められた緊張感にじっくりと読まされてもしまいました。
きっちりと出来上がったものを読んだなぁという印象が残ります。

人生は旅。
まさにそういう物語でした。






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