カプグラ症候群を題材にした小説です。
ずいぶん長いこと読んでいました。…なかなか読み終えられなくて…。
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エコー・メイカー
著者:リチャード パワーズ
発行:新潮社
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弟のマークが交通事故に遭ったという知らせに故郷へ戻ったカリン。
奇跡的に命をとりとめたマークだったが、彼はたったひとりの肉親であるカリンを「姉の偽者」と言うようになります。
カプグラ症候群は、脳の損傷によって親しい人たちを認識した時にわくはずの感情がわかなくなり、その事実を自分に納得させるために彼らが本人そっくりの偽者たちだという理屈をつくりあげてしまうというもの。
彼らの偽者はなぜ現れたのか。それを納得するため、理屈はさらにエスカレートし、やがて妄想の域に発展します。
偽者の姉、友人たち、偽物の故郷に囲まれていると感じながら生きることを余儀なくされるマーク。
たったひとりの弟に偽者と呼ばれて苦悩を感じる半面、マークの中には愛すべき姉である過去の自分がいることに喜びを感じるカリン。
マークを診察するためにやってきた著名な(『妻を帽子とまちがえた男』のオリバー・サックスのように)脳科学者ウェーバー。
マークの患った症状は、呼び交わされるこだまのように次第に周囲の人々へ影響を及ぼしていきます。
カプグラ症候群をテーマにしたものという興味で手にした1冊。
630ページ。
当然楽しい筋書きではなく、脳の脆さ、ひいては自分の感覚や意識の脆さを突きつけられ、登場人物それぞれの苦悩につきあうのはしんどいものがありましたが、それでもページを先に進ませるのは、物語に織り込まれたいくつかの謎です。
不明なままの事故原因は明かされるのか。
瀕死のマークの枕元に残されたメモはいったい誰が書いたものか。
不思議な魅力でマークたちを惹きつける看護助手の真意とは何か。
なんとも言い難い読後感です。
謎に関しては、まあ、そうだろうな、というところで。
私自身は途中から、読み終えた後、巻末にある長そうな解説を読んだ時に自分がどう思うかに興味が移ったように思います。
実際に読んだら、まずは本編を読んでほしいとあって、ちょっと笑ってしまいました。
解説によると著者は「該博な知識を駆使して世界を解釈するような小説を書くだけでなく、作品の構造そのものに野心的な実験を仕掛ける作家」だそうです。
野心的…なるほど…。
作品紹介の文章には『幾多の織り糸を巧緻に、そして力強く編み上げた天才パワーズの脅威の代表作にして全米図書賞受賞作』とありました。
表紙の鳥は鶴。
なにゆえこの表紙?と読み始める前は思いましたが、読み終えて納得。
様々な思いに翻弄される人間の物語の中にあって、ひたすらシンプルで力強い生命の姿は印象的です。
作中で「夕方のは演劇だが、朝のは宗教」といわれた、鶴たちの群れなす光景をみてみたいと思いました。
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