ゆっくりと世界が沈む水辺で

きしの字間漫遊記。読んでも読んでも、まだ読みたい。

【香水 ある人殺しの物語】を観ました。

2007-03-22 | 観るものにまつわる日々のあれこれ
何かと話題のこの作品。
有名な原作の映画化です。



比類なき嗅覚を持つ青年・グルヌイユが主人公。
母親に生み捨てられるという誕生から始まる悲惨な生活から次第に這い上がりながら、調香の技術を得て、たったひとつの望みのためにすべてを賭けていきます。
忘れられない究極の芳香を自分の手で再現し、永遠のものとすること。
そのためならば、何ものも厭わない。
非常に一途な物語です。

2時間30分、気を逸らされることもなく観終えました。
みっちり観ることを要求される作品。
疲れましたが、観甲斐はありました。
楽しいシーンはひとつもありません。
あえていえば、お化粧したダスティン・ホフマン?

原作にかなり沿って作られています。
でも、長い原作ですから、エピソードを省く、短くするのは当然ながらグルヌイユが香りで意識的に人間を操ることを覚える章が抜けたのは惜しいように思います。
最後で、グルヌイユが香水を使うことが唐突に感じてしまったのは、そのためではないかと。

とはいえ、嗅覚を視覚に置き換えて匂いの記憶を喚起させる映像は、なるほどという感じ。
冒頭の魚市場などは、思わず顔をしかめてしまうような臭さの印象。
音楽も綺麗でしたし、俳優さんたちにも文句はありません。
グルヌイユの非人間的な雰囲気もたっぷり。
行っている作業の不気味さと、グルヌイユの職人的な丁寧さと手際のよさの対比がたまりません。
文章で読むより、ずっと怖い。
女の子たちはみんなかわいいし、ああ、いい匂いがするんだろうなぁと、素直に思えます。
グルヌイユの最後の香りの原料となる少女は、ほんとにかわいいです。

途中まではほぼ原作どおりと思っていたのですが、最後で、映画と原作は決定的に違うという印象を私は受けました。
原作のグルヌイユは、最後まで人間を愛さず、憎悪し、軽蔑しきっていました。
ですが、映画のグルヌイユは、刑場となった広場での群集の狂態を前にして、涙を流します。
そのときにかぶっていたのは、最初に彼が殺した少女の映像。
少女が、グルヌイユに怯え、叫ぼうとするのではなくそっと彼を抱きしめる、グルヌイユの想像の映像です。
これはどういうこと?
香りだけを求めたのではなく、彼女に愛されることを望んでいたことに気がついたということになるのでしょうか。
そうなると、自分を殺すつもりで近づいてくる男に、刺してくれというように両手を広げるグルヌイユの心情がまるで違う意味にとれてしまいます。
こんな茶番はもう止めにしたいという捨て鉢さが消え、まるで、後悔しているよう。

これってどうなのでしょう。
グルヌイユが人間ぽくなって、つまらないと思ってしまいました。
映画をまとめる筋書きとしてはいいという思いはあるのですが。
むむむ。



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2 コメント

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み、観てきました・・・ (りなっこ)
2007-03-23 19:13:14
私も、観甲斐ありました。

>楽しいシーンはひとつもありません

た、確かに!

>お化粧したダスティン・ホフマン?

そ、それも確かに!
全体的にしっかり気持ち悪かったので、そこのところで満足しています。
ホント、あの女優さんは可愛かったですねぇ。 惚れ惚れしました。 頭髪剥かれた姿も、ちょっと倒錯的で・・・。 あ、私は変態ではありませんよ。
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私は (きし)
2007-03-24 01:26:09
変態っぽく観てきたかもしれません
肌に傷がついたら、血の匂いが混ざってしまって、使えなくなるのかしらとか。

あの女優さんは15歳だとか。
赤毛が似合う色の白さってすごいですねぇ。
他の作品でも観たいです。眼の保養。
返信する

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