ゆっくりと世界が沈む水辺で

きしの字間漫遊記。読んでも読んでも、まだ読みたい。

花弁の如き足の物語。 馮 驥才 【纏足 9センチの足の女の一生】

2007-10-10 | and others
 
ワタクシ、纏足を甘くみていました。
小さな頃から足を縛って、成長しないようにする。大人の体に子供の足。そのアンバランスのために歩行が困難になると思っていたのですが…。
それどころの騒ぎではありません。

纏足 9センチの足の女の一生
 纏足 9センチの足の女の一生 
 著者:馮 驥才(ふう きさい)
 訳者:納村 公子
 発行:小学館
 ◆pagi_pagi先生に教えていただいた1冊。


初めて主人公の少女・香蓮(こうれん)が足を縛られるときの描写のスゴイこと。
想像したことが正しいのか、にわかには信じられず、思わず、Wikipediaで骨の様子を描いた画像を確認。→ こちら
さすがにこれ以外の画像を続けて探す気になれませんでした。
本物の纏足した足の、素足の写真などをうっかり見てしまったら、鳥肌がたちそうな気がしたからです。
自分の足をそのままトゥ・シューズやハイヒールに仕立て上げるようなもの。もちろん、これは控えめに言っての話です。
いや、これだけの足を作るには、どれだけ辛い思いをしなければならないかをちょっと想像しただけでも、背筋が…。
ですが、それほどの苦痛があるとすれば、自分の足こそ最高と賞賛されたい、というのも当たり前かもしれません。そして、そのためならば更なる苦痛も厭わないというのも。
主人公・香蓮は、その恵まれた小足を武器のひとつとして、果敢に生きていくことになります。

とはいえ、人に褒められる足をしているということがどれほどのことなのか、香蓮にも、読んでいるワタクシにもまだピンときていません。
ただ、講談風の文章のリズムの良さと、ピリリと効いた風刺・諧謔の味につられて読み進めていきます。
まじめに物語を追っていたかと思えば、不意に読み手に直接話しかけてくるような、著者の自在な筆運び。
読み進めるごとに引きずり込まれて、10センチに満たないほどの小ささの足を特に「金蓮」と呼び、過剰な愛情を傾け、饒舌に語り合う好事家たちの言に、ほ~、なるほどと、思わされてしまいます。
纏足フェチ同士の駆け引きがまた面白いのですな。
要するに、どっちが一番の纏足フェチか、という暗闘なのですが。
そして、その鑑賞の対象となる足の持ち主たちのほうも熾烈な戦いを展開。
ナメてかかっていた香蓮は手痛い一敗を喫します。

本当に面白くなるのはここから。
折りしも時は時代の変転期。
欧米列強が我が物顔で、中国に入り込もうとする頃。
それに揺るがされる中国の人々は、我と我が手で、纏足の駆逐にかかります。
美醜の逆転。昨日の賛美は、今日の侮蔑。
香蓮に小さな足をもたらしたおばあちゃんには、このような価値観の逆転が起こることなど思いもよらなかったことでしょう。
香蓮はいかにして、足ひとつに翻弄される運命に立ち向かうのか。
彼女の内面はそう細かく描写されるわけではないのですが、その選択、その姿は非常に印象に残るものでした。

この作品、文化と人の在り方について冷静な批評の視線を持ったものであり、それを元に、いろいろと考えてみるべきなのだろうと思いはしますが、軟弱な本読みのワタクシにはちょっと無理。
日本でこれほどの転換を迫られたのはいつかと考えて、敗戦のときしか思い浮かばなかったところで、気分的にもう行き止まりです。

それにしても9センチ。文庫本の長さより小さい。
そういう足が履くのはこういう靴なのですね。
手すら入りませんよ、きっと。
というか、絶対。

clickで拡大。
 纏足の靴―小さな足の文化史
 
 著者:ドロシー コウ,Dorothy Ko
 訳者:小野 和子,小野 啓子
 発行:平凡社




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2 コメント

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う・・・・ (koharu)
2007-10-10 16:46:30
図解みました。
これは・・・寝ても冷めてもバレリーナ・・・
ヒールの高い靴も苦手な私には絶対無理だと思いました。
女の人の美しさへの執着。
纏足とかコルセットとか、首長族の女性とか、時にすさまじいものがありますよね~。
私の場合、少しは見習ったほうがいいのですけど・・・
スゴイですよね。 (きし)
2007-10-11 01:14:23
土踏まずは本当に土踏まず。私にも絶対無理です。
首を長くするというのも確かに。誇らしげですものね。(でも痒そう)
もし纏足に女性の行動の自由を奪う意味が含まれていなければ今もあったのかもしれませんね。
纏足ではとても働けなさそうですし、豊かさがなければ生まれなかったものなのかも。

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