アキレウスといえば、女神で過保護な母君がいて、猛烈に強かったわりに、さほど良い印象を持っていない半神半人の英雄…と思ってしまうのは、私がアキレウスについてをちゃんと読んだことがなく、拾い読みしかしてこなかったからだろうと思います。
だって、ホメロスの『イリアス』をちゃんと読むほどの興味をアキレウスにもったことがないものですから…。
ま、まるっきり言いわけですけれども。
さて、この作品『アキレウスの歌』。
女性作家が対象となるイギリスの文学賞「オレンジ賞」の受賞作だそうです。
アキレウスの歌
著者:マデリン・ミラー
訳者:川添智子
発行:早川書房
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『イリアス』はアキレウスの生涯のうち、ギリシア軍の総大将アガメムノンとの諍いを中心としてトロイア戦争のさなかのある時期を語ったものですが、この作品では、アキレウスの少年時代からその死までが描かれます。
この著者はどれほどの愛情をアキレウスに対して抱きながら、『イリアス』という叙事詩を読んだのだろうとため息がでます。
著者のその気合いの入り具合になかばひきずられるようにして読んでしまいました。
希代の英雄となることを予言された少年アキレウスが青年となっていく過程には、自国でのおだやかな時、ケンタウルスのケイロンの下での修業時代、トロイア戦争を避けていた時期、そして、トロイア戦争へという流れがあり、そのすべてに寄り添うのがパトロクロス。
物語は、王子でありながら自国を追われ、アキレウスの父のもとへ送られたことでその息子アキレウスとの間に強い絆を育くむことになった彼の視点で描かれ、彼がアキレウスを愛したかであふれんばかりです。
パトロクロスの眼がとらえて離さないアキレウスは、輝くばかりの美しさを意識することすらなく自然にまとった少年であり、運命に与えられた才能をあるがままに受けとめ、発揮する半神。
けれども、その一方で、アキレウスは常に自分の想いに忠実で、一途にパトロクロスを愛するただの人間でもあり、その無防備さは幼さを感じさせるほどです。
半神半人アキレウスの生涯は、人の子であるパトロクロスと出会い、失うがゆえに神々に予言された道を進んでいきます。
「死が二人を分かつまで」のその後までを語る物語を読み終えて、『イリアス』を読んでおけばよかったと思いました。
ざっくりとでも読んでいて、自分なりの感想を『イリアス』やアキレウスに対して持っていれば、この物語を読んでいれば、思うところももっと変わったかもしれません。
「そう、そう、そんな感じ!」と思うか、「これはちょっとなぁ」と思うか。
実は、読み始める前は想像していなかったような作品だったのですが、いずれにせよ、物語が語りなおされることのおもしろさを思わせてくれる作品でした。
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