『黄昏に眠る秋』、『冬の灯台が語るとき』と続いたエーランド島シリーズ第三弾。
出たのを知ってからだいぶ経ってしまいましたが、折しも春に読む機会がきました。
赤く微笑む春
著者:ヨハン・テオリン
訳者:三角和代
発行:早川書房
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主人公のひとりであるペールの年老い、病んだ父親が所有する別荘が全焼。
当の父はその火事の直前その別荘におり、焼け跡からは男女の死体が発見されました。
父と事件の関係は?
そして、物語はもうひとりの主人公である女性の過去に巣食う事件の真相を辿ります。
ペールは父親の過去を調べていきますが、事件の真相へと向かう足取りは遅々としたもの。
幼い頃の断片的な記憶から真実を知ることも同様です。
登場人物たちそれぞれの記憶と過去の出来事を少しずつ追いながら、進んでいきます。
シリーズ通しての登場人物である元船長イェルロフも当然その中のひとり。
長い時をエーランド島で生きてきた彼には多くの出来事の記憶があり、それは他者の断片を繋ぎ合わせる役割を負います。
ただ、それは彼にとっては苦い後悔もつれてくるのです。
今回も雰囲気のあるミステリです。
謎は明らかにするというより、次第に明らかになっていくという感じで、謎解きや真相自体が強い興味を引くという作品ではないと思います。
エーランド島の風土、伝承といったものが全体を包み、過去と現在の境を朧にしていくその先に展開していく物語。
このシリーズについてよくいわれる、島という舞台そのものが主人公のようだということが腑に落ちる作品でした。
そういえば、それが気にいって読んでいたんだったなと、読み終えて思い出しました。
秋、冬、春と進んできたシリーズ。
次は、夏。
ひとめぐりですね。
『エーランド島の石切場のそばのコテージに暮らしはじめたペール・メルネル。ある日彼のもとに、疎遠にしていた派手で傲慢な父ジェリーから、迎えに来るよう求める電話が入る。渋々父の別荘に赴くと、そこに待っていたのは謎の刺し傷を負った父だった。そして直後に別荘は全焼する。なぜこんな事件が起きたのか? 娘の病気などの悩みを抱えながらも、ペールは父の暗い過去を探りはじめる――。エルフとトロールの伝説が息づく島で、人々の切ない記憶と過去が交錯する。英国推理作家協会賞受賞作家が贈る深い余韻が残るミステリ』
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