つられたのは表紙です。
好きなんです。牧野千穂さん。
紙の動物園
著者:ケン・リュウ
編・訳者:古沢嘉通
発行:早川書房
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表題作の『紙の動物園』の主人公はアメリカ人を父に、中国人を母にもつ少年。
少年は両親の愛情をうけて暮らしていますが、いわれのない、でも明らかな差別にさらされるうち、英吾も話せないままの母を疎ましく思うようになっていきます。
彼の気持ちもわからなくありません。
まだ、ちゃんと自分の頭で考え、判断できるようになる前に吹き込まれた心無い言葉は、毒にも等しい。
少年は母をないがしろに扱ったまま、成長し、母を亡くしてしまいます。
彼に、失ったものの大きさ、母の思いの深さを教えるのは、包装紙で折られた小さな虎。
乱暴に言ってしまえば親孝行したいときには親はなし、というお話です。
母の書いた文字になぞって、「愛」の文字を書く主人公に、読みながら泣きそうになってしまいました。
最近、涙もろくていけません。
著者は中国系のアメリカ人。
プロフィールによると弁護士であり、プログラマーであり、表題作『紙の動物園』では、ヒューゴー賞、ネビュラ賞、世界幻想文学大賞の三冠に輝いた小説家でもあるわけですから、エリートと言っていいと思います。
それでも、どこかにマイノリティとして、表題作の少年のような思いを抱いたことを想像させ、そして、そうでありながらも、自分のルーツに誇りを持ち、自分だから書ける作品があることをはっきりと自覚している印象があります。
その印象の強さのためでしょうか。他者に寛容にみえて、でも決して交わることのない頑なさも感じました。もし、日系に間違われたら心ひそかに怒る人ではなかろうかと想像したりして。
日本オリジナルで編まれたこの短編集には、著者の背景が連想させるタイトルがずらり。
表題作の『紙の動物園』、『もののあわれ』、『月へ」、『結縄』、『太平洋横断海底トンネル小史』、『潮汐』、『選抜宇宙種族の本づくり習性』、『心智五行』、『どこかまったく別な場所でトナカイの大群が』、『円弧(アーク)』、『波』、『1ビットのエラー』、『愛のアルゴリズム』、『文字占い師』、『良い狩りを』。
全部で15篇です。
表題作以外にも親子間の愛情、つながっていく命についてを思わされる作品や、宗教をふくめた文化、文明そのものを考えさせる作品も多いのですが、変に小難しいところはなく、SFらしい面白さのある短編集。
私は『選抜宇宙種族の本づくり習性』が好きでした。
泣くつもりで読んだわけではありませんでしたが…。
もうひとつおまけにefさんのこのレビューを読んでみてください。
これはもうぐっとくること間違いありません。
もしかすると既にどこかでお読みかも知れませんが。
http://www.honzuki.jp/book/226105/review/148651/
ほんと、泣くつもりで読むわけじゃないんですけどね。この本はキました。efさんの記事にも。
いずれわかるよと言われてきたことがわかる年齢になってきたということでしょうかね。