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カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

場面その16

2016-10-02 16:09:29 | 松高の、三羽烏が往く道は
 平成の昨今では殆ど聞かれなくなったが、『バンカラ』という言葉がある。やはり最近は聞かない言葉となった、西洋風の身なりや文物を求める『ハイカラ』(high collar 、シャツの高襟に由来する)の対義語で、敢えて弊衣破帽、つまり着古した学生服に破れたマント、学帽を纏い、荒々しい振る舞いを行う事によって表面を取り繕う事無く真理を追究する態度を示した、ある意味では武士道的精神を含んだ禁欲的な行動様式と言えるだろう。ちなみに漢字を当てるなら『蛮殻』若しくは『蛮カラ』であり、昭和時代の少年漫画に登場する『番長』との混同から『番カラ』と記される場合もあるが、これは誤りだそうだ。
 そしてバンカラの集団と言えば、何と言っても高校の全国的普及に伴う校外対抗試合の応援役を担う、つまりは応援団の存在が大きい。

「徳性ヲ滋養シ学芸ヲ講究シ身骸ヲ鍛錬シ以テ本校の校風ヲ發揚シ教育ノ資助トナサンコト」

 これは、第四高等学校の校友会である北辰会の会則だが、応援団とは『徳性を育み、学芸に励み、身体を鍛錬する事によって自校の校風を輝き顕し、教育の助けとする』事を目的に組織され、組織的かつ規律的な応援活動を通じて集団的連帯感情を育て、最終的にはそれを「善良ナル校風ノ発揚」にまで高めるのが目的であったとされている。

*   *   *

 さて、当然ではあるが松本高等学校にも応援団は存在していて、放課後ともなれば熊髭(クマヒゲ)と綽名される容貌魁偉な団長の指揮の元、校庭の隅で打ち鳴らされる太鼓の轟音に併せて応援歌やエールをがなり立てる団員達の蛮声が喧(かまびす)しいことこの上ない。
 だが、その日太鼓の傍らで団員達の指揮を執っていたのは、普段は影の様に団長に付き従うばかりの無口な副団長だった。何も知らない団員は珍しいこともあるものだと思いつつも、日頃から炎のような蛮声を張り上げる団長とは違い、まるで氷の巌を思わせる太く重い副団長の声に僅かな怯えを覚えつつも普段通りの練習に励む。勿論、彼らは誰一人として現在の団長が部室内でどれだけの修羅場の只中に在るのかを知らなかった。
 

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