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カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

記念樹

2011-11-07 19:27:30 | ホラー書きによる一週間のお題
むかしむかし。
地獄の血の池で苦しむ罪人達を哀れに思った仏様が、池の血を高く高く吹き上げました。
天に届いた血は夕焼けとなって空を染め、地に広がった血は赤い花となって一面に咲き乱れました。
その花の名は血吐き、つまり椿の花です。

※ ※ ※

私が通うことになった小学校は、校章に椿の意匠を使っていた。
山を削って造られたばかりの敷地には、当然のように歴史のありそうな銀杏の大木や手入れの行き届いた桜並木など存在せず、それなら別の花木をと奇を衒ったのかもしれない。
それから六年後、学校が新設されたときには一年生だった私たちが卒業する際、記念樹を植えようという話になった。
椿の花を、北国では真冬の二月に、卒業する生徒達の手で。

反対がなかった訳ではないらしいが計画は実行に移され、私たちは寒空の下、硬く冷たい土を無理矢理に掘り起こした穴に苗木を植え付けることになった。あの時の身を切るような冷たい風と、手にしたシャベルから伝わってくる容赦のない手応えは今でもはっきりと覚えている。
自分たちの置かれた理不尽な立場に対して、何となくではあるが不快な感情を抑えきれない同級生たちはしきりと、桜の方が良かった、とか、椿って縁起が悪い花なんだって、とか、口々に不満を並べたてていた。

誰かも判らない大人達の思惑に、訳も判らぬまま従わされることしかできなかった子どもの頃。

それから更に月日は流れ、久しく故郷を離れていた私が数十年ぶりに帰省した際の気紛れから、母校だった小学校を訪ねた時。
私たちが植えたはずの椿の苗木は跡形もなく、そこには綺麗に花開いた桜の木が並んでいた。
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