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カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

空には偽物のお月さま

2011-11-04 23:17:30 | ホラー書きによる一週間のお題
空には偽物のお月さま。

だから僕は、外した仮面を偽物の地面に叩き付けてから右手に持った偽物のナイフを振り下ろし、偽物の奴らを思う存分に切り刻もう。
阿呆のように空いた奴らの口元から悲鳴が迸ろうと構うことはない。奴らはいつだって僕の哀願を嘲笑い、奴らのしたいようにしてきた。だから今度は僕の番だ。

奴らの肉体にずぶずぶと沈み込んだ刃は殆ど抵抗なく肉と骨を断ち切っていく。あまりに簡単すぎる気がしないでもないが、カッターで消しゴムを刻んだことしかない僕には、これが精一杯なのだろう。血も滲む程度にしか流れ出していないが、僕だって血の海なんか見たくない。

バラバラになっても何事かを喚き続ける奴らを僕は躊躇なく踏みにじってから、首だけになった奴らの一人を選んで髪の毛を掴んで持ち上げる。もう口答えしても殴られないのだからと喚き声も無視して、今まで散々言われてきたことを言い返してみる。

汚いゴミクズ、邪魔なだけの役立たず、何で生きてる、死ねよ、さあさあさあ。

首だけになった奴らの表情がぐしゃぐしゃに歪む。傷付いたのか、僕に向かって同じ事を言っていた時は笑ったくせに。

面白半分で笑いながら僕に死ねと言い続けた奴らが、首だけになって死ぬことも出来ないまま僕に許しを請う。もちろん僕は許さないまま笑ってみせる。偽物のお月さまの守護の元、短い偽物の夜を味わうために。

やがて夜は明け、本物のお日さまの光に晒された偽物のお月さまは跡形もなく消え去る。
そして本物のお日様が照らす本物の世界では、奴らは誰も死なないまま僕を刻み続けるのだ。


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