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カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

第三十夜・懐(ゆか)しい名前

2017-07-14 19:33:57 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『知るも知らぬも』と『紫』を使って創作してください。

 紫と書いて「ゆかり」と読むのは源氏物語の章に紫という色名が多数登場する「ゆかり」から来るのだと聞いて以来、娘が生まれたら名前は紫にしようと決めていたが、妻に「フツー読めない」と却下された。それなら平仮名で「ゆかり」にしようと言ったら、「ふりかけ?」と笑われた。妻とは今までも色々あったが、結局はその一言が殺人の引き金であり動機となった。
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第二十九夜・葡萄棚のある光景

2017-07-13 19:38:09 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『光のどけき』と『葡萄色』を使って創作してください。

 澄み渡る空の下で一面に広がるのは青々と茂る葡萄棚。ちょうど目線の高さに据えられた線路は時折マッチ箱を連ねたような電車が通り過ぎる、極めて長閑な、文字通り絵に描いたような田舎町の光景。
 だが、それが一体何処なのか、私にはどうしても思い出せない。代わりに思い出すのは、何故か瓶を叩き割ったような衝撃と、辺り一面に飛び散る黒ずんだ葡萄酒色に染まった自分。

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第二十八夜・ピヨの未来

2017-07-12 19:34:46 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『折らばや折らむ』と『鳥の子色』を使って創作してください。

 縁日で買ったヒヨコをピヨと名付けて飼うことにしたら、母さんはいい顔をしなかったが父さんは一度体験しておくのも良いだろうと許してくれた。どうせすぐ死んでしまうと言われ続けたふわふわで小さかったピヨは、やがて白くて凶暴な雄鶏に成長し、早朝から大声で鳴いたり庭に入り込んだ猫や鴉に喧嘩を売るようになって近所から何件も苦情が来た。結局、どうしようも無くなった僕は父さんの言う通りに飼料を一袋付けて田舎の親戚にピヨを譲ったが、その後の父さんは僕がピヨの消息について尋ねても言葉を濁すばかりだ。
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第二十七夜・戻らない夏

2017-07-11 19:23:35 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『長長し夜を』と『小豆色』を使って創作してください。

 小豆色をした屋根の家には、毎年、枝という枝に白い星の形をした花が連なるように房となって咲き誇る樹が植えられていた。あれが卯の花だよと母に教えられ、花の時期である初夏になるとうろ覚えの唱歌を口ずさみながら学校に通い続けたある日、その家の奥さんが亡くなった。やがて樹は伐られ庭は荒れ、だから、未だに独り切りでそこに立ち尽くしている奥さんも寂しそうだ。
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第二十六夜・群青色の似合うお月様

2017-07-10 18:35:25 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『いでし月かも』と『群青色』を使って創作してください。

 長患いの末に亡くなった父さんの胸から出て来たのは銀色の光球だった。病のせいか所々が黒くくすんでいたが、それが却ってお月様のような陰影を与えていて、僕は言葉もなく「お月様」が天に昇っていく様を見詰めていた。不思議なことに父さんに取りすがって泣いていた母さんは、そんなものは見えなかったと言う。
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第二十五夜・多分永訣の日

2017-07-07 21:31:46 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『立ち別れ』と『黄土色』を使って創作してください。

 滅多に会わない知り合いと思いがけない場所で出会い、今まで借りていた漫画だと紙袋を渡された。帰ってから袋を開けたら貸した覚えの無い漫画が混じっていたので連絡を入れたら家族の人に葬式はもう済んだと言われた。確かにあの時の奴は酷く顔色が悪かったが、まさか漫画を返すためだけに化けて出たのだろうか。だとしたら義理堅い話ではある。
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第二十四夜・バケモノ専用の殺戮人形

2017-07-06 22:08:05 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『神代も聞かず』と『紅葉色』を使って創作してください。

 私は人間の作った人形として完成し、主人である旦那様と任務についている。主な仕事はバケモノに対する囮で、連中が私を引き裂いて喰らおうとする隙を突いて旦那様がバケモノに止めを刺す。時折だが本当に引き裂かれて修理を必要とすることがあるが、旦那様はそんな時、何故か決まって悲しそうな顔になるのだ。
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第二十三夜・青色の約束

2017-07-05 21:28:24 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『露に濡れつつ』と『藍色』を使って創作してください。

 彼は優しい人だったが、その誓いには何一つ真実が無かった。ただ、それは彼が嘘つきだと言うより、恐らくは誓いを果たすほどの力か、或いは意志が足りなかったせいなのだろう。
 今では私も一見は誠実に見える露草の澄んだ青が、かつて証文の記名を誤魔化すために使われた、とても消えやすい青色だと言うことを知っている。
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第二十二夜・梅伐らぬ馬鹿

2017-07-04 20:01:09 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『ふけにける』と『紅梅色』を使って創作してください。

 梅林の持ち主である偏屈で口の悪い老婆は昔から梅干しを漬けるのが上手く、自慢の梅干しは遠方に住む娘夫婦に送るだけでなく頼まれれば近所の人間にも分けてやっていた。やがて老婆が最後まで受け継ぐ者のいない梅林を気に掛けながら亡くなった後、梅林は公園となって整備されて市民の憩いの場となり、今では有志が漬けた老婆直伝の梅干しが名物土産となっている。
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第二十一夜・麦を踏む

2017-07-03 22:59:05 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『降れる白雪』と『草色』を使って創作してください。

 麦踏みのようなモノだと、常に親父は俺に言っていた。麦の芽は霜柱の浮きを防いで根張りをよくするために丁寧に踏まなければならないのだと。そうすることで徒長すること無く頑丈に育つのだと。
 そうやって物理的な意味で踏みにじられ続けながら育った俺は成長したある日、とうとう耐え兼ねて親父を同じ目に遭わせ、その結果として親父は死んだ。
 麦を踏むのは新芽の頃だけで後は苗の成長に任せると俺が知った時には、全ての取り返しが付かなくなっていたのだ。
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