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カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

第六十夜・桜色の贈りもの

2017-08-25 22:27:38 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『春過ぎて』と『蜥蜴色』を使って創作してください。

 桜の花が大好きだという女の子にアピールしようと頑張った結果、生物錬成科の教授ですら溜息を吐くような美しい桜色の生き物を造り上げた後輩は、意気揚々と会心の自作品を彼女に贈ったが、例え桜色をしていようと爬虫類は大嫌いだと突っ返された。それでもめげずに新生物を造り上げたが、やはり両生類は以下同文。
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第五十九夜・お月様の果実

2017-08-24 20:43:11 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『月宿るらむ』と『橙色』を使って創作してください。

 今度課題でお月様の果実を作るんだと友人に話したら、お前がこれから行うことなどオレは既に成し遂げているなどと高笑いしながら物凄いドヤ顔で琥珀色に輝く球体を見せてきた。
 何でも数ヶ月掛けて錬成した濃縮月光を惜しげもなく物質変換したとんでもなく貴重な物質らしいが、友人の学科は鉱物錬成科で僕は農耕学科、残念だが僕の育てる月光果実樹の参考にはなりそうもないので持って帰って貰った。
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第五十八夜・山の桜と散り散りに

2017-08-23 22:57:44 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『花の散るらむ』と『煉瓦色』を使って創作してください。

 かつて信州松本には旧制高校が存在し、沢山の若者がヒマラヤ杉の並木道から学舎に通っていた。日本の未来を担うエリートが集うとされた学舎は名物教師が存在し、学生の多くははバンカラと呼ばれる姿で勉学だけではなく山や街を闊歩しては大いに楽しみ、やがて卒業していった。彼らが消えた学舎は今でもなお、彼らの物語を我々に伝えてくれる。
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第五十七夜・赤い猫

2017-08-22 21:02:01 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『風のかけたる』と『火色』を使って創作してください。

 闇夜を駆ける赤い猫を見たことがある。轟音と共に天に向かう炎が暴風で煽られて渦巻く中、鮮やかな火の粉を散らして屋根から屋根へ飛び移る赤い猫。猫が降りた屋根は直後に猫と同じ色の炎が吹き出し、更にそこから赤い猫を生み出し、やがて街は赤い猫に喰らい尽くされ、そこには崩れかけた墨色の骨組みと白い灰塵だけが残された。
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第五十六夜・走って滑って見事に転ぶ

2017-08-21 19:37:41 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『露に濡れつつ』と『松葉色』を使って創作してください。

 都会育ちの友人は足元が滑りやすい道に弱い。雪道や氷道だけでなく濡れた草の上を歩いても豪快に滑って転ぶ。見かねてアウトドア用の靴をプレゼントすると素直に履きはするのだが滑る。挙げ句の果てに貴様は何故に滑らんのだと文句を言われたが、子どもの頃に散々滑って学習を重ねた成果なので、踵を地面に叩き付けた直後に意識して捻りを入れながら足先まで踏み込む、所謂『攻撃的防御歩法』をマスターするまではせいぜい思う存分に滑るんだな、などと冷酷なことを思う俺だった。
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第五十五夜・私が捨てなければならなかったもの

2017-08-18 21:49:44 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『みをつくしても』と『消炭色』を使って創作してください。

 献身は必ずしも報われるものではないということを、小さい頃から家族に嫌と言うほど教え込まれてきた。
 両親が笑顔で褒めるのは決まって兄か妹で私はいつだって出来損ない扱いさ、兄妹も常に私を小馬鹿にした態度しか取らなかった。
 だからなるべく早めに家を出ようと準備をしていたらお前が居ないと困ると全員に反対され、彼らが誰か一人を生贄に家庭内の和を何とか保っていたこと、そして皆それに気付いていることを知った私は、消し炭のように冷え切った心の中に僅かに点った熾火が自分を含めた周囲を残らず灼き尽くしてしまう前に家から逃げ出した。
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第五十四夜・夜明け前

2017-08-17 22:34:08 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『乱れ染めにし』と『曙』を使って創作してください。

 布団の中で不意に目覚めて何となく窓の外に視線を向けた時、夜明け前のどす黒い漆黒が広がっていると何やら気落ちすることがある。
 普段ならもう少し眠れると安心する筈が騒動の続いた日は心に負った重荷が消えないまま身体に残っているらしい。
 だから、そんな時は何も考えずに目を瞑り、夜明けの光が重荷を消し去ることを願うのだ。
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第五十三夜・思い出せない貴女

2017-08-16 19:35:20 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『むかしの友』と『紅梅色』を使って創作してください。

 香りは時として視覚の情報より遥かに鮮烈な記憶を呼び覚ますことがあると聞くが、その初春の甘やかな香りが僕にもたらしたのは正に炸裂と呼ぶべき衝動だった。

 土手一面に咲き誇る紅梅。
 眼前で歪んだ微笑を浮かべる貴女。

 小さかった僕は泣き喚いて必死に手足を動かし、それが当たった直後に貴女の顔が醜く歪んだ後の事は全く覚えていないが、多分それが正解なのだろう。
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第五十二夜・月は無慈悲な男の死神

2017-08-15 13:21:16 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『月宿るらむ』と『菫色』を使って創作してください。

 どうして日本の月の神は男なんだろうと、奴は残念そうに呟いた。闇夜に輝く、つまりは死の領域を司る神が女神ならさそかし安らかに眠れるだろうにと。
 だから俺はギリシャ神話に於ける月の女神アルテミスは処女神で、男に対して全く容赦がないぞと答えると、奴は悔しそうにその姿を消した。なお、ローマ神話に於ける月の女神ディアナが豊穣神なのは知っていたが黙っておいた。
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第五十一夜・やがて来る晴れ間

2017-08-14 23:38:26 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『わびぬれば』と『鼠色』を使って創作してください。

 雨は嫌いだけど待つことは出来るんだと先輩は笑った。

 だって、雨上がりの空はとても素敵だから。
 誰一人保証してくれなくても、僕には雨上がりの雲間から差し込んでくる光を信じると。

そして己の人生を遮るように降り続く雨が止むのを待ち続けた先輩は結局、止むことの無かった激しい雨に打たれて息を引き取ることになったが、地上での苦しみに満ちた生の勤めを終えた先輩は、ようやく雨に濡れることのない雲の上で暮らせるようになったのだと思いたい。
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