goo blog サービス終了のお知らせ 

カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

第七十夜・貴方のお粥と私のお粥

2017-09-08 19:04:08 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『君が為』と『鳥の子色』を使って創作してください。

 風邪を引いたので見舞いに来てくれと頼まれたので彼の部屋に行ってみたら、食事も出来ないままへばっていたので取りあえず卵を入れた普通のお粥を作ったら、梅干しが入っていないとか出汁の味が利いていないとか訳の判らない事を言うので鍋ごと持って帰ってきた。彼は一体どんなものを食べたかったのだろうか。
コメント

第六十九夜・かつての草原

2017-09-07 21:21:36 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『雲の通い路』と『草色』を使って創作してください。

 その公園には丈の低い雑草に覆われた小さな丘があって、寝転がると草の香りの中で遥か上にある青い空を流れていく白い雲が見えると友達に誘われた。でも、僕は草の汁や湿った土で服が汚れるのも虫に刺されるのも嫌だったので石造りのベンチにハンカチを敷いて座るだけだった。
 あれからずいぶん時が流れ、今では丘に寝転ぶ子もいない。
コメント

第六十八夜・家神様のお姿

2017-09-06 19:15:50 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『神のまにまに』と『蜥蜴色』を使って創作してください。

 うちの家神様は普段、細面で顔色の悪いお公家さんのように見えるが実際は人間ではないと言う。お酒が好きなので何となく蛇ではないかと思っていたが、実は蛇は蛇でも金蛇なのだそうだ。だから衣装が黄色の混じった褐色の縞模様なのかと納得しつつ、蛇なら良かったと涙ぐむ家神様の杯を酒で満たして差し上げる。
コメント

第六十七夜・神無月の酒宴

2017-09-05 19:51:16 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『神のまにまに』と『山吹色』を使って創作してください。

 婆ちゃんが供えていた蜜柑色の酒が瓶ごと消え、しばらく後に空瓶となって戻ってきた。そう言えは神無月だったなと納得しながら、自分はしがない家神だが婆ちゃん始め家の人間が大事に祀ってくれているので末席でも扱いは良いと自慢げに語ってくれたのを思いだした。

 ちなみに、大陸の神様は序列に関する認識がかなりシビアらしい。
コメント

第六十六夜・レンゲ草を追って

2017-09-04 23:09:08 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『花ぞ昔の』と『緋色』を使って創作してください。

 山中の田舎に住む祖父母の家には休耕田が幾つかあり、春になるとレンゲの花が散らばるように咲いていた。
私は昔からこの紫がかった紅色の花を大好きで、毎年あるだけの花を摘もうと目に付いたレンゲを追いかけて坂道の棚田を昇ったり降りたりしていた。その時一緒に花を摘んでいた、もはや名前どころか顔も全く思い出せない子どもがいるのだが、当時、祖父母の家の周辺に子どもがいる家は一軒もなかったと後で知った。
コメント

第六十五夜・神在月の酒宴

2017-09-02 00:02:48 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『神のまにまに』と『蜜柑色』を使って創作してください。

 とろりとした蜜柑色のお酒は、うちの神様の好物なのだと婆ちゃんは言った。このお酒を神棚に供えると封も切っていないはずのお酒がどんどん減っていき、三日目には完全に空になる。それは神様が友達の神様と一緒に酒宴をした結果なのだと婆ちゃんは信じている。日本には八百万もの神様がいるから、きっと友達は沢山いるねと婆ちゃんは言い、僕は曖昧に頷く。
コメント

第六十四夜・夜桜終焉

2017-08-31 23:08:43 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『花の色は』と『墨染』を使って創作してください。

 ずいぶん昔、夜の水路に桜を見に行ったことがある。ときおり月の光を反射する漆黒の只中で一面に散らばった薄紅の花弁を彼方に運んで行く黒い水面に幻惑されながら、これはきっとどんな反物よりも奇麗だと思った。
 でも、私はその時、同じ水路で溺れ、美しい水面の下で冷たくなった子どもが下流に向かって流されていったのを全く知らなかった。
コメント

第六十三夜・真夜中の目玉焼き

2017-08-30 23:08:24 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『ふけにける』と『鳥の子色』を使って創作してください。

 夜遅くに腹が減ったので冷蔵庫を開けたら、めぼしい食糧が卵しか無かったので目玉焼きを焼くことにした。
 分かる人間には分かって貰えるだろうが完璧な目玉焼きを焼くには細かい手順を守らないといけない。そして焼き色、黄身と白身の固まり具合、塩加減と文句の無い出来の目玉焼きが焼き上がった頃に妻に見付かり、高い卵を勝手に使ったと散々怒られた。
コメント

第六十二夜・水の世界の上と下

2017-08-29 20:24:45 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『夢の通い路』と『水色』を使って創作してください。

 初めて深い水の中に潜った時、いきなり自分の知る世界が一変して驚いたのを覚えている。
 全身をまんべんなく覆う圧力と濁った音を立てて水面に昇っていく気泡。そして頭上に広がる水の中と外の世界を隔てる水面。ここは自分の知る世界では無いと慌てて水から上がると水の上はいつも通り僕のよく知っている世界で、何だか安心するよりも落胆したのを覚えている。
コメント

第六十一夜・飴色の彼女

2017-08-28 19:23:00 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『明けぬるを』と『飴色』を使って創作してください。

 彼には既に婚約者である彼女がいたのだが、私は構わず彼女から彼を奪った。彼は私の華やかな金髪と菫の瞳に心を奪われ、飴色の髪と瞳を持つ地味な彼女を捨てた。彼女はその後自ら命を絶ち、私と彼は幸せな結婚をして女の子が生まれた。

 だが最近、私には似ても似つかない飴色の髪と瞳を持つ地味な娘が私に向けてくる眼差しが何だか怖い。
コメント