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カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

第五十夜・終わった花

2017-08-11 00:29:52 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『むかしの友』と『藤色』を使って創作してください。

 藤というのは房になって垂れ下がる薄紫の花が見るものに可憐な印象を与えるが、花が散ったあとに現れる大振りで平たい豆の莢はお世辞にも可愛らしいものではない。そして、私が知る頃の彼女もまた可憐だったが、もう十年以上会っていない私に突然真夜中電話を掛けてきた女性は全く知らない夜の女になっていて、でもそれは彼女にとって恐らく自然な変化だったのだろう。
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第四十九夜・届かない苦しみ

2017-08-10 22:57:14 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『高嶺に』と『紅葉色』を使って創作してください。

 高嶺の紅葉が鮮やかに色付くのは、寒暖の差が激しい中で雨露に濡れるからなんだ。だからあの赤は葉っぱが散々痛めつけられた末に滲み出す血の色のようなものなのさ。ひょっとしたら美しい姿には必ず相応の苦しみが付いて回るのかも知れないけど、だからと言って苦しめば必ず美しくなれる訳でも無いから、全く以て世界という空間は冷酷極まりない理に満ち満ちている。
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第四十八夜・受け取り拒否

2017-08-09 19:41:06 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『わびぬれば』と『灰色』を使って創作してください。

 俺は自分の子どもを持ってようやく他人を苛めるのがどれ程酷い事かが判った。同時に子どもの頃自分がやっていた事を思い出して居ても立ってもいられなくなり、思い切って当人に謝りに行った。すると相手は笑顔のまま「絶対に許さないけど別に気にしなくていいよ」とだけ言って家の扉を閉めてしまい、俺は一人取り残される。
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第四十七夜・誰もいない教室

2017-08-08 20:06:17 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『むかしの友』と『薄墨色』を使って創作してください。

 同窓会のお知らせ葉書を手に取った途端に甦るのは、あの頃の思い出。ぞんざいなラクガキ顔で訳の判らない言葉を叩き付けてくる男子生徒と、薄墨色の向こう側でくすくすと嗤う女生徒。ただ、確かにそこにあった筈の恐怖と戸惑いはとうに屍肉となって腸諸共に腐り果て、歳月という風雨に晒され続けた挙げ句にすっかり洗い流されて白い骨だけが残り、もうあの教室にも私の中にも生きているものなど何一つ残ってはいない。

 だから、私は葉書を破り捨てた。
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第四十六夜・三匹の子豚のようにはいかない

2017-08-07 20:38:41 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『しづ心なく』と『煉瓦色』を使って創作してください。

 煉瓦建築が日本に馴染まなかった理由は通気性の悪さと耐震性の問題が大きい。高温多湿故に湿気が室内に籠もり、芯を入れずに積んだだけの煉瓦組は震動で容易く崩れ落ちる。そんな訳で唯一の利点である美観を追求する場合は基礎の壁に貼り付けた所謂化粧煉瓦の出番となるわけで、なかなか世知辛い話だ。
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第四十五夜・誰もいない空

2017-08-04 23:56:20 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『わびぬれば』と『空色』を使って創作してください。

 日本の神話に於いて空というのは空間であり、故に「空の神様」というのは存在しない。だからだろうか、空というのはあれだけ美しい姿を地上に示し続けながら決して誰のものにもならず、いつだって無慈悲だ。そして、だからこそ決して手に入れることの出来ない美しさに魅せられた人間は時に空を見上げながら涙を流すのだ。
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第四十四夜・止まらない血

2017-08-03 23:56:30 | 百人一首と色名で百物語
 彼は笑顔で心のままに振る舞う。他人がその振る舞いについてどう感じるか、正確には私がどう感じるか、彼は決して考えたりはしない。だから流れ出る私の血が止まることはなく、私は彼から離れるしかなかった。ただ、別に同じ傷を負って貰いたい訳ではなかったのに、どうして今、彼は私の目前で斃れているのだろう。
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第四十三夜・菫の花咲く頃

2017-08-02 20:36:16 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『花の散るらむ』と『菫色』を使って創作してください。

 ニオイスミレと呼ばれる菫の花は外見が地味ながらも芳香がとても強いので、しばらく嗅いでいるとその香りを感じなくなる。そして目立たない野の菫のようだった彼女の匂うような魅力を当然のものとして貪りつつけた僕は、やがて疲れ果てた彼女から別れを告げられた。
 悪いのは自分だと充分に承知しつつ、それでも彼女が魅力に見合う華やかな姿をしていたならと良かったのにと考えてしまう卑怯な僕がいる。
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第四十二夜・正しい吸血鬼

2017-08-01 21:53:38 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『人は言うなり』と『緋色』を使って創作してください。

 実際の処、吸血鬼は人間の血を吸ったりはしない。彼らが吸うのは純粋に「精気」であり、故に栄養学も血液適合問題も彼らには無縁だ。が、美女の首筋に牙を立ててその生き血を啜る吸血鬼という絵面は色々な意味でそそるものがあるのもまた事実なので、彼らは敢えて人間達のイメージを覆したりはしないのだ。
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第四十一夜・幻の牡丹花

2017-07-31 23:02:40 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『あらしといふらむ』と『牡丹色』を使って創作してください。

 昔、当時は珍しかった緑色の花が見られるというので牡丹園に行ったことがある。広大な敷地に整然と植えられた牡丹樹を彩る薄紅や赤紫、それに純白と、重なり合った花弁が造り出す豪華絢爛な花々に暫し我を忘れて見惚れながら最後に辿り着いた特設スペースで咲いていたのは、小振りで弱々しい薄緑の花が一輪。
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