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カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

第八十夜・飛散

2017-09-22 23:42:23 | 百人一首と色名で百物語
 秋の紅葉を思わせる、飛び散って重なり合った鮮やかな赤い色の中に一人佇む。やがて私が歩き出すと、逃げることも出来ないまま座り込んでいた連中は一人残らず飛び散っていった。
 大勢で一人を嬲りものにするような男は全て砕けて散ってしまえとは思ったが、私がそう願っただけで砕け散るとは思わなかった。
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第七十九夜・お祖母ちゃんのストール

2017-09-21 23:19:35 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『春過ぎて』と『藤色』を使って創作してください。

 私が中学校に入学した春、お祖母ちゃんはお祝いだと薄い紫色のストールをくれた。鮮やかな赤や黄色が好きだった子どもの私は、濡れたように輝く絹製の薄紫色が持つ落ち着いた上品さが全く分からずに不満だったが、やがて成人式の振り袖姿でそれを肩に羽織ったとき、ようやく理解出来た。お祖母ちゃんはきっと私が成人式を迎える日まで、自分が待ってはいられないことを知っていたのだ。
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第七十八夜・言葉の意味と世間の誤解

2017-09-20 21:35:03 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『人は言うなり』と『鶯色』を使って創作してください。

 やや古めかしい言葉だが「目白押し」という有名な言い回しがあって、これは群れを成して枝などに止まる小鳥のメジロが、まるで押しくら饅頭でもしているかのような状態のことを言う。

 ちなみに、メジロとは目の周りが白いための名前らしいが、実は世間で言うウグイス色をしているため、ウグイスと間違えられることが多い。実際のウグイスはメジロより遥かに地味な色合いをしているから、全く以て世界は理不尽に満ちている。
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第七十七夜・見えるひと、見えないひと

2017-09-19 19:49:20 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『雲の通い路』と『蜥蜴色』を使って創作してください。

 家神様は誰にでも見える訳ではなく、うちの家族なら婆ちゃんと僕だけがお公家さんの姿で見える。母さんは光る金蛇にしか見えないらしく、父さんと妹は全く見えないそうだ。そして妹は、婆ちゃんや僕がお公家さんのような格好をしているという家神様を物凄いイケメンと思い込んでいるが、現実が見えないって本当に哀れで幸せだと思う。
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第七十六夜・飴玉の記憶

2017-09-18 19:45:58 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『今ひとたびの』と『飴色』を使って創作してください。

 口の中に入れて噛み砕くと、イチゴ風味をした表面の固い部分が崩れて中に詰まったミルク味と混じるだろう。すぐに心の中で願いごとを唱え、飴の味が口の中からなくなるまで繰り返せば願い事が叶うんだけど、飴と一緒に血の味を感じたら……

 そこで言葉は止まり、いきなり何人も現れたおまわりさんの格好をした大人が、この部屋に私が連れてこられてからずっと飴玉しか食べさせてくれなかったお兄ちゃんを押さえ付けた。
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第七十五夜・埋み火

2017-09-15 23:52:55 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『しづ心なく』と『消炭色』を使って創作してください。

 昔、少しだけお付き合いのあった彼は頭の回転が速く話題の豊富な楽しい人だったが、ときおり感情の波が激しくて口が荒い所を見せることがあった。そんな時、よく観察してみると彼は明らかに、自分が負の感情を向けても許してくれると判断した相手だけに乱暴な態度を取っていた。
 結局、私は気分次第で罵倒されるのに疲れ果てて彼から離れたが、たまにあの頃を楽しかった日々として思い起こす時がある。
 ただし、再び戻ろうとは欠片ほども思わない。
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第七十四夜・黄昏時の淡い狂気

2017-09-14 21:13:17 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『雲の通い路』と『桜色』を使って創作してください。

 天気が良い日の夕方は黄昏の空に浮かぶ雲が桜色に染まって幾ら見ていても飽きない程に奇麗だと私が言うと、彼女は躊躇いがちに目を伏せる。そんな態度が気になって何度もしつこく問い糺すと観念したように、確かに奇麗だけどアレをずっと見続けていたら狂わずに済む自信が無いとJ彼女が答えてきたので想像してみたら確かに頷ける意見だったが、今まで奇麗だと思っていた空が急に怖くなってきたので私はそれを彼女のせいだと責め立てた。
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第七十三夜・水の下にも居る輩

2017-09-13 23:47:30 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『紅葉踏み分け』と『水色』を使って創作してください。

 山歩きに不慣れな友人と紅葉狩りに行ったら、案の定何も考えないまま派手に散り重なった紅葉にダイブしようとしやがった。放っておいたら非常に面倒な事になりそうだったので渾身の力を込めて引き摺り戻してから石を落としたら、案の定水音を立てて紅葉の下に沈んでいったが、その石を掴んで水底に消えた手は一体なんだったのだろう?
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第七十二夜・彼の和風ジャム

2017-09-12 23:59:17 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『立ち別れ』と『小豆色』を使って創作してください。

 それじゃお餞別だよと彼が渡してくれた包みを開くと、中に入っていたのは手紙の添えられた瓶詰めだった。

 君の為に和風ジャムを作ってみたよ。鍋に付ききりで丁寧に煮たからきっと美味しいと思う

 そう書かれた手紙と一緒に入っていた瓶詰めは和風ジャムと言えば言える。ただし世間では餡子と呼ばれる物だ。
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第七十一夜・家神様と三毛猫

2017-09-11 20:38:49 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『神のまにまに』と『鼠色』を使って創作してください。

 うちは家神様が金蛇なのでネズミ系の動物は飼えないのだが、代わりに凄まじく肥えた三毛猫がいる。
 コイツは神をも畏れぬ恐ろしい猫で、何とお気に入りの昼寝場所が家神様を祀る神棚付近だったりするから始末に負えない。ちなみに家神様は神棚に乗られようと半身を突っ込んだ姿で惰眠を貪られようと一向に気にせず、何とかコイツの歓心を買おうと必死にアプローチを掛けては無視されているようだ。
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