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カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

第九十夜・天使の卵

2017-10-08 22:28:30 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『神のまにまに』と『鳥の子色』を使って創作してください。

 友人が旅行の土産だと言って天使の卵をくれた。基本的には食用だが孵化させることも出来るらしいので色々方法を調べてみたら、殆ど鶏の卵を孵す手間と変わらなかったので試してみることにした。三十日後、めでたく孵化した僕の天使はどうやら御使いだったらしく、ラッパを高らかに吹き鳴らして世界を滅ぼした。
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第八十九夜・蜜柑と妹

2017-10-06 22:19:46 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『雲の通い路』と『蜜柑色』を使って創作してください。

 外国の丸いみかんも良いけど、やっぱり日本の平たくて柔らかいみかんが好きだなと笑った妹は、その年の蜜柑が獲れる季節になるよりも早く息を引き取った。そして私は今でも一人になると、しばしば蜜柑色の太陽が浮かんだ黄昏時の空を見上げながら、日本の蜜柑のように柔らかくて温かい色彩をした妹の笑顔を思い出すのだ。
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第八十八夜・咲くは蔓花

2017-10-04 18:52:36 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『花の色は』と『橙色』を使って創作してください。

 東京で暮らしていたとき、夏の住宅街で狭い庭先を彩るノウゼンカズラの鮮やかな色彩を見ると元気をわけて貰えるような気がした。また、金属製の柵に絡んで不思議な円形の花を咲かせるトケイソウの造形に目を奪われた事もある。その頃の私は過酷な環境で花を咲かせる蔓草が、その生命力で他の植物を駆逐して繁殖する恐ろしさを知らなかった。
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第八十七夜・幻の森

2017-10-03 21:10:57 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『露に濡れつつ』と『苔色』を使って創作してください。

 山奥で一度だけ迷い込んだ空間は、濃霧の漂う中で下草と苔に覆われた地面から大人が数人がかりでも抱えきれないほどの幹を持つ樹が幹に蔦を這わせながら幾本も天高く聳え立ち、荘厳としか称しようのない雰囲気を醸し出していたが、山を下りた私に地元民は、あの山にそんな場所はないと口々に言った。
 それが本当だとしても嘘だとしても、あの空間はきっと神座かなにかで、本来人間が立ち入って良い空間ではないのだろう。
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第八十六夜・例え枯れ果てても

2017-10-02 23:56:42 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『恋ぞ積もりて』と『黄土色』を使って創作してください。

 心に咲いていた恋の花が枯れたので、残骸となった花殻を土中深くに埋めて忘れることにした。

 やがて時が過ぎ、あの頃の恋を思い出しもしなくなって久しい頃に「それ」は土中から全く新しい姿となって芽吹き、見慣れない姿のまま成長して、やがて見知らぬ新しい花を咲かせた。

 そして、その時、僕はようやく恋が永遠のものだと知った。
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第八十五夜・光に浮かぶ影

2017-09-29 23:19:34 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『光のどけき』と『牡丹色』を使って創作してください。

 森鴎外の鼠坂を基にした物語で、日本人少年が中国の大きな家で暮らしていた際に自宅で目撃した女の子を花の精霊だと思って楽しい空想に耽るが、実はそれは隠れ住んでいた抗日分子の中国人一家で、少年が花の精霊について話したせいで全員処刑されてしまったという話を読んだ。優しく夢を浮かび上がらせる光が生み出す現実の影は、いつだって哀しい。
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第八十四夜・彼女の中身

2017-09-28 20:53:40 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『つれなく見えし』と『真緋』を使って創作してください。

 人の腹なんて、それこそ割ってみないとわからないという言葉に、私は自分に笑いかけてくる美しい外見をした彼女の中見も同じように美しいのかをどうしても知りたくなった。
 やがて完璧な準備を調えた末に、私が引き裂いて中に詰まっていた腸を一つ残さず露わに晒した物言わぬ彼女の新鮮な緋色は予想以上に美しく瑞々しい姿をしていて、だから私は一人で泣くのだ。
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第八十三夜・高嶺の薔薇にはトゲがある

2017-09-27 21:44:33 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『高嶺に』と『薔薇色』を使って創作してください。

 届かないと思い込んでいた高嶺の花を手にした時は嬉しくて、自分を取り巻く世界が変わって見えた。けれど、同時にその花は咲かせ続けるために膨大な肥料と手間が必要な、少しでも扱いを間違えると鋭い棘を突き刺してくる無慈悲で冷酷な存在でもあった。
 結局、傷だらけになって耐え切れずに高嶺から落ちた私が最期に見上げた花は、はじめて見た日と寸分違わぬ美しい姿をしていた。

 つまり、私はあの花にとって、その美しさに惹かれて現れた虫の一匹にしか過ぎなかったということか。
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第八十二夜・緑の檻

2017-09-26 22:29:40 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『行くも帰るも』と『萌木色』を使って創作してください。

 もう、この延々と続く森の中で、どれだけの時間を歩いているのかは覚えていない。
 判で押したように同じ高さで同じ枝振り、更に同じ色彩の葉を茂らせている森の木々は、この森が少なくとも通常の自然が育んだものではないことを物語っているが、まだ動ける間に出口を見付けられない限り、いずれは私もこの樹木に入り混じって似たような樹に変成するか、さもなくば肥料になるのだろう。
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第八十一夜・うらみ葛の葉

2017-09-25 19:50:31 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『みをつくしても』と『狐色』を使って創作してください。

 狐だったお前の母さんは森に還ってしまったのだと、父さんは僕に言った。
 それが真実かどうかはともかく、確かに僕に母さんはいない。

 だから僕は父さんのいない夜に、魔物が棲むと恐れて人が近付かない深い森を、自分で造った淡い輝きを放つ妖火を片手に、未だ見たことのない母さんを探して彷徨うのだ。
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