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社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

泉弘志「産業別生産性水準の日韓比較」『大阪経大論集』(大阪経大学会)第58巻第6号, 2008年

2016-10-10 11:49:25 | 8.産業連関分析とその応用
泉弘志「産業別生産性水準の日韓比較」『大阪経大論集』(大阪経大学会)第58巻第6号, 2008年[梁炫玉・李潔との共同執筆](『投下労働量計算と基本統計指標-新しい経済統計学の探求(第11章)』2014年)

 筆者が本稿で行っているのは, 日韓の生産性水準の比較(2000年)である。推計作業には, 全労働生産性水準の国際比較モデルが使用され, 各商品に関する日韓両国の各産品単位量(100万円, 100万ウォン)を生産するに必要な全労働量(投下労働量)が, 連立方程式を用いて計算される。分析はその推計結果の比較による。全労働量の推計であるから, 各産品の生産に投下された直接労働量の他に, その生産に提供される原材料, 固定資本を生産するに必要な間接的な労働を含む。また, 海外から輸入される原材料, 固定資本に投下された労働も, 単位あたり輸出品の平均投下労働量を, 輸入品を入手する外貨に投下されている労働量と仮定し, 推計する。

指標は2とおりあり, 一つは「各産品の全労働生産性」であり, これは上記の説明から明らかなように, 当該産業の直接労働生産性(労働係数), 原材料生産性(中間投入係数), 固定資本生産性(固定資本減耗係数)の他に, 他産業のそれらの生産性などを統合した総合的生産性指標である。もう一つは「当該産業の全労働生産性」でこれは当該産業の労働生産性, 原材料生産性, 固定資本生産性を統合した指標で, 他産業の各係数, 輸出品の産品構成比率などは捨象されている。

利用された統計は主として産業連関表であるが, この統計も含め通貨表示の統計を使って生産性水準の国際比較を行うには, 国ごとで通貨単位が異なるので, それらを統一するために換算する購買力平価が必要である。筆者は, 自身が共同研究者として名を連ねる研究グループが推計した日韓2000年産業別購買力平価に, 若干の手を加えて改良したものを利用した, としている。産業別就業者数に関しては, 両国産業連関表に付帯されている雇用表, 「労働力調査」(日本), 「経済活動人口調査」(韓国)が使われ, その際, 連関表付帯表とその他の統計との数の不一致については, 推計用に独自の調整が加えられた。

日韓の生産性水準の比較に関しては, いくつかの先行研究があり, 筆者はそれらを丁寧に紹介し, 自身の分析結果と付き合わせている。柳田義章「労働生産性の国際比較研究」(2002), 西手満昭「日韓主要産業の推移とFTA」(2007), 日本社会経済生産性本部「労働生産性の国際比較」(2002), 韓国生産性本部「生産性の国際比較」(2001)がそれである。

 分析は多岐にわたるので, ここで, 詳細には示すことはできない。筆者自身が, 「おわりに」で要約しているので, 引用する, 「概括すると, 韓国の生産性はすでにかなり高い水準に達しているが, 2000年の段階では全産業平均でも工業部門の平均でも日本よりまだ少し低い水準である。しかし産業別に見ると, 2000年時点でも, 韓国の生産性が日本より高い産業は相当ある, といえる。先行研究と違ったわれわれの計測の特徴として, 韓国には, 産業によっては, 技術の改善が進み産品物量当たり当該産業で必要な労働量はすでに日本より少ない状態に達しているが, その産業に原材料や設備を供給する産業や輸入原材料・輸入設備を入手するために必要な外貨を稼ぐ輸出産業の生産性が日本に比して低いため, 産品物量当たり国民経済全体で必要な労働量は日本より多い, という状態にある産業も存在する」(p.241)。補論として, 日中韓3国の2005年生産性水準の国際比較がある。

泉弘志「購買力平価と産業連関表の多国間比較-日中韓2000年を対象に-」『産業連関』(環太平洋産業連関分析学会)第15巻第2号, 2007年

2016-10-10 11:47:59 | 8.産業連関分析とその応用
泉弘志「購買力平価と産業連関表の多国間比較-日中韓2000年を対象に-」『産業連関』(環太平洋産業連関分析学会)第15巻第2号, 2007年[李潔・梁炫玉との共同執筆](『投下労働量計算と基本統計指標-新しい経済統計学の探求』大月書店, 2014年)

 経済効率, 生産性, エネルギー効率などの国際比較を全産業について行うには, 同一形式, 同一通貨単位, 同一価格水準で表示された産業連関表がなければならない。そのために必要なのが, 購買力平価(同一通貨単位にすると同時に, 同一価格水準にする換算比率)である。この購買力平価をもとめるには種々のやり方があるが, 筆者はGK法(Geary-Khamis method)が適していると評価し, その算定を行い, その他に独自のユニークな方法として国際平均投下労働量法を提起し, その計算も示している。(この日中韓購買力推計は, 李潔, 梁炫玉との共同研究との断り書きがある。)

産業連関表を使った生産性, エネルギー効率などの国際比較を実施する場合, 各国の産業連関表には次の条件がもとめられる。第一は, それぞれの産業連関表が同一形式であること, 第二にそれらが同一通貨単位で表示されること, 第三にそれらが同一価格水準で表示されていることである。同一通貨単位にすると同時に, 同一価格水準にする換算比率である購買力平価で変換された連関表が, 実質値産業連関表である。

実質値産業連関表の3つの性質に注意が喚起されている。第一は加法整合性である。第二は基準国不変性である。第三は推移性である。加法整合性とは, 合計項目の実質値が, 構成項目の実質値と等しくなることである。基準国不変性とは, 基準国を変えても相対価格水準が変化しないことである。推移性とは, 国ごとの特定価額項目の比率が整合的でなければならないとする比率である。以上のうち, とりわけ重要なのが, 加法整合性という性質である。実質値産業連関表作成がこのようなものとなる購買力平価の算定がもとめられる。

 筆者によれば, 各国産業連関表を同一価格水準に統一する場合に, どのような価格に統一するかには3つの方法がある。①基準国価格に統一する方法, ②国際平均価格に統一する方法, ③経済理論にもとづき導出した価格に統一する方法, である。筆者はGK法を②と, 独自の国際平均投下労働量モデルにもとづく購買力平価算式を③と位置づけ, 両者の推計手順の解説に入る。

 筆者が具体的に行った作業は, 日本総務省, 中国国家統計局, 韓国銀行の2000年産業連関表を同一形式の連関表(28部門)にすることである。その手順は, 次のとおりである。
第一段階:産業部門ごとの購買力平価の推計。①基準国不変性を満たす産業部門別2国間購買力平価の計算, ②推移性を満たす産業部門別3国間購買力平価の計算

 ①によってもとめた結果は2国間ごとに基準国不変性を満足するが, 推移性を満たさない。そこで, 次の手順が必要になる。それは①の結果を利用してEKS算式(当該2か国の結果の2乗と他国を介して間接的に得られる結果とを幾何平均)によって, 産業ごとに推移性を満たす購買力平価をもとめる作業である。この結果を利用すると, 日中韓のどれかの国を基準とし, 他の2か国の産業連関表を基準国価格に変換できる。この作業によって, 産業別国内生産額および輸入額のそれぞれは, 基準国不変性と推移性を満たす産業別購買力平価を使用したことになるので, 日本価格, 中国価格, 韓国価格のいずれに変換した場合にも相対的大きさは同じである。しかし, 国内生産額輸入額合計はそうはならない。国内生産額輸入額合計も基準国不変性を満たすよう次の第二段階の作業が必要である。

 第二段階:加法整合性を満たす産業別購買力平価の推計。ここでの課題は基準国を変えても変化しない一つの価格体系で全ての国の産業連関表を表示することであるが, 問題はこの一つの価格体系として何を利用するかである。筆者は2とおり考えている。第一の方法がGK法, 第二の方法が国際平均投下労働量法である。前者は現実の各産品の各国価格を欠く産品の各国数量で加重平均した価格を使用する方法である。後者は各産品の生産に直接・間接に必要な労働量の国際平均に比例する価格を使用する方法である。

 計算結果が示されている。中国のGDP(2000年)は, 日本価格で統一した場合日本の1.79倍, 韓国価格で統一した場合日本の1.89倍であるが, GK法で国際円価格を統一した場合, 日本の1.36倍である。これを独自の国際平均投下労働量モデルで計算した労働国際円価格を採用すると, 中国のGDPは日本の2.52倍となる。「これは, 現実の価格が投下労働量に比例したものより農業や軽工業で相対的に低く重化学工業やサービスで相対的に高くなっている結果, 投下労働量をウェイトにした場合農業や軽工業のウェイトを大きくし重化学工業やサービスのウェイトを小さくするので中国の相対値を大きくし, 現実価額をウェイトにした場合は逆になるということである」(p.110)。筆者はGK法, 国際平均投下労働量法の併用を推奨している。

泉弘志「全要素生産性と全労働生産性-それらの共通点と相違点の比較考察及び日本1960-2000年に関する試算」『統計学』(経済統計学会)第80号, 2005年3月

2016-10-10 11:46:24 | 8.産業連関分析とその応用
泉弘志「全要素生産性と全労働生産性-それらの共通点と相違点の比較考察及び日本1960-2000年に関する試算」『統計学』(経済統計学会)第80号, 2005年3月[李潔との共同執筆](『投下労働量計算と基本統計指標-新しい経済統計学の探求』大月書店, 2014年)

 生産性の計測によく使われる指標に, 全要素生産性(Total Factor Productivity:以下TFPと略)がある。これには種々の問題点があり, 筆者はそれを指摘しつつ, この指標に代替する全労働生産性(Total Labor Productivity:以下TLPと略)を提唱する。

 筆者は本稿でまずTFPとTLPの共通点を, 次いで両者の相違点を論じ, 最後に日本(1960-2000年)の産業部門別生産性上昇率を試算し, 計測結果の相違を分析している。

 TFPとTLPの共通点として, 筆者は何を指摘しているのだろうか。TFPは, 生産要素が複数のものから構成されていることを考慮し, 総合的に生産性を計測する方法である。それは, 特定の生産関数, あるいは特定の諸生産要素価格を前提とし, 種々の生産要素の投入量を集計し, それを産出量と対比し, 総合的に生産性を計測する。これに対し, TLPは, 直接労働量に固定資本や原材料を生産するのに必要な労働(間接労働)を足した全労働量を産出量との対比で計測し, 総合的に生産性を計測する。両者とも直接的な労働生産性, 固定資本生産性や原材料生産性などの各要素生産性を総合した生産性を計測する方法である点は, 共通している。

 TFPとTLPの相違点は, どこにあるのだろうか。筆者はこれを, 産出量, 固定資本投入量, 労働投入量, 原材料投入量, 生産要素投入量のアグリゲート(集計)のそれぞれで, 明らかにしている。まず, 産出量について。相違点は2つあり, 一つは産出量変化率(経済成長率)を集計する際のウェイトである。TFPでは時価価額をウェイトとし, TLPではウェイトを各項目ないし各産業の産出物を生産するのに必要な全労働量とする。もう一つは産業別産出量の指標を何でとるかである。TFPでは固定価格産業別国内生産額だけでなく産業別付加価値額も産業別産出量とされるが,TLPでは固定価格産業別国内生産額等が産業別産出額とされ,産業別付加価値は産業別産出量と考えられない。

 固定資本投入量, 労働投入量, 原材料投入量はTFPでは, それぞれの要素が提供するサービスと考えられている。すなわち, 固定資本投入量では資本サービス量, 労働投入量では労働サービス量, 原材料投入量ではそれが生産に果たす貢献である。これらは新古典派の経済学による。TLPでは, 固定資本投入量は固定資本減耗量, 労働投入量は抽象的人間的労働量(労働時間×労働複雑度×労働強度), 原材料投入は原材料に投下されている労働量である。筆者はTLPによらなければ, 固定資本に関する技術進歩, 労働様式に関するそれを正確に測定できないと考えているので, この計算方法を推奨する。生産要素投入量のアグリゲート(集計)に関して, TFPでは, 特定の生産関数あるいは特定の生産要素価格(費用削減率)に依拠して行われる。TLPでは, 生産諸要素に投入された労働の総計である。前者に対しては, TLPの立場から詳細な批判が展開されている。そうした批判点が提示されているのは, TLPではそれらの諸問題を解決できるという自負が背景にあるからである。TFPとTLPの相違点で, 筆者は最後にTFP上昇率が当該産業の固定資本投入率, 中間投入率, 労働投入率の変化だけで決定されるに対し, TLP上昇率が当該産業だけでなく他産業の固定資本投入率, 中間投入率, 労働投入率の変化によっても影響を受けることを予定していることを指摘している。

 以上をふまえ, 筆者はTFP, TLP計算のプロセス, 使用するデータを細かく紹介し, 日本(1960‐2000)のTFPとTLPそれぞれの上昇率を計測している。計測結果は, 以下のとおりである。第一に, 4つの指標(産品TLP上昇率, 当該産業TLP上昇率, TFP上昇率(固定資本シェアを固定資本減耗引当のみとした), TFP上昇率(固定資本シェアを営業余剰+固定資本減耗引当とした)すべてで, 生産性は1960年代に大きく上昇し, 70年代, 80年代にもかなり上がり, 90年代はわずかに上がった。第二に, 産業によって多少の多寡はあるが「産品TLP上昇率>当該産業TLP上昇率>TFP上昇率(固定資本シェアを固定資本減耗引当のみとした)>TFP上昇率(固定資本シェアを営業余剰+固定資本減耗引当とした)」となった。

 筆者の分析はこうである, 「産品TLP上昇率>当該産業TLP上昇率」は, 各産品の生産においてその商品を生産している当該産業だけでなく, その産業に原材料や固定資本を供給している産業の生産性も上昇した事実の反映である。「当該産業TLP上昇率>TFP上昇率」に関して, 両指標とも当該産業の固定資本生産性, 中間投入生産性, 労働生産性を総合したものであるが, 違いはTFP上昇率が各生産要素の生産性変化をそれらの生産要素の金額シェアをウェイトにして平均しているのに対し, TLP上昇率が各生産要素の生産性変化を, それらが当該産業の産出単位量当たり全労働をどれだけ変化させたかで総合していることである。「TFP上昇率(固定資本シェアを固定資本減耗引当のみとした)>TFP上昇率(固定資本シェアを営業余剰+固定資本減耗引当とした)」は, 技術上昇があるとき, 多くの場合, 労働投入上昇率<中間投入上昇率<固定資本投入上昇率であるので, 固定資本のシェアが大きく労働のシェアが小さければ, TFP成長率は小さくなるということである。(以上はpp.163-64からの引用)

泉弘志「全労働生産性による中国の部門別生産性上昇率の計測」『産業連関』(環太平洋産業連関分析学会)第13巻第3号, 2005年

2016-10-10 11:36:38 | 8.産業連関分析とその応用
泉弘志「全労働生産性による中国の部門別生産性上昇率の計測」『産業連関』(環太平洋産業連関分析学会)第13巻第3号, 2005年[任文との共同執筆](『投下労働量計算と基本統計指標-新しい経済統計学の探求(第10章)』大月書店, 2014年)

 1978年の「改革開放」政策後, 中国経済は, 成長が著しい。その中国経済の生産性上昇はどの程度のものか。中国経済の近年の生産性を, 筆者独自の全労働生産性(TLP)で測定し, 若干の分析を行ったのが本稿である。藤川清史・渡邉隆俊が別途行った全要素生産性(TFP)との比較も行い(藤川清史・渡邉隆俊「中国経済の産業別生産性上昇と外国資本」『甲南経済学論集』第43巻第2号, 2002年), 中国のような移行期発展途上国の生産性分析には, TLPのほうがTFPよりも適している, と結論付けている(完全競争市場を想定できないため)。

 TLP上昇率の計測では, 産業連関表を活用した通常の部門別全労働量計算モデルに, 固定資本減耗係数行列を加味する工夫をこらして, 計算を行っている。固定資本減耗係数行列は, 固定資本が複数年使用されることを考慮し, 固定資本ストック額を耐用年数で除した値を通常の投入係数行列との類推で作成される。この場合, 固定資本が生産される年と, 使用(消費)される年とで, 固定資本を生産する部門の生産性が異なることがありうるが, 筆者は「使用される年にその固定資本を再生産するとしたらどのような生産性であるかという値を使う」としている。また, 輸入原材料, 輸入固定資本に投下された労働を計測しなければならないが, 既存の連関表からそれらを直接に推計することは無理なので, 当該産品の輸出品1ドルを生産するのに必要な労働で代替している。輸入には外貨が必要であり, 1ドルの外貨を得るためには1ドルと評価される量の輸出品を生産しなければならないという便宜的仮定のもとでの措置である。

 関連する2つの指標が用意されている。産品TLP上昇率と当該産業TLP上昇率である。前者は, 計測すべき対象が各産品の生産に関係するすべての国内活動の効率の上昇率である。後者は計測すべき対象がその商品を生産している産業の効率の上昇率である。

 筆者はこれらの産品TLP上昇率と当該産業TLP上昇率の2つの指標を藤川・渡邉方式によるTFP推計(産業別就業者のデータの扱いが異なるので, 推計価値に若干差がある)と比較している。結果は, TFP, 産品TLP, 当該産業TLPのいずれの上昇率も, 1987‐92年に比べ, 1992‐97年のほうが大きくなっている。1987‐92年全産業非違金上昇率は0.23%とわずかであったが, 当該産業TLP上昇率は2.026%, 産品TLP上昇率は4.60%と高かった。産業別の生産性上昇率でも, 符号(+か-か)の違いがかなりあった。すなわち, 産業別生産性上昇率の符号で, 1987‐92年に関し, TFP上昇率は19産業のうち9産業でマイナスであったが, 当該産業TLP上昇率は8産業, 産品TLP上昇率は2産業がマイナス, 1992-97年に関して, TFP上昇率は7産業でマイナスであったが, 当該産業TLP上昇率は5産業, 産品TLP上昇率は存在しなかった。また, ほとんどの産業で「TFP上昇率<当該産業TLP上昇率<産品TLP上昇率」の関係が認められた。これは当該産業の固定資本生産性, 中間投入生産性, 労働生産性の変化を総合した指標であるのに対し, 産品TLP上昇率がそれらだけでなく, 当該産業に原材料や固定資本を供給している固定資本生産性, 中間投入生産性, 労働生産性の変化を含んでいるからである。

良永康平『ドイツ産業連関分析論』関西大学出版部,2001年

2016-10-10 11:33:53 | 8.産業連関分析とその応用
良永康平『ドイツ産業連関分析論』関西大学出版部,2001年

 『ドイツ産業連関分析論』と題する本書の課題を著者は,次のように説明している。「日本と同様に敗戦国でありながら,戦後『奇跡の経済復興』(Wirtschaftswunder)を遂げ経済大国となったドイツ,その戦後経済の歩みを日本と比較することは,きわめて意義のあることである。・・・本書では産業連関表の観点から,日本とドイツの経済構造を総合的に行うことを目指している」と(序文)。この明快な問題意識に接すると,興味は当然のことながら,第一に1990年の統一ドイツに前後するこの国の経済の実体がどのように説明されるのか,第二に分析に利用された統計である産業連関表がどのように使われたのか,という点に向かう。また,戦後のドイツ経済の分析が日本経済との比較でなされるので,分析の対象は両国経済の国際比較となる。そうであれば,第三の関心事は比較分析のために産業連関表の組み替えの技術的な処理がどのように行われたのか,という点につながる。

 本書に対する以上のような興味と関心に重きをおきながら,以下では産業連関表にもとづく経済の実証分析という研究分野で本書が成した貢献を,各章の内容紹介という形式で確認していきたい。

第1編「沿革と作成方法をめぐって」
 第1章「ドイツの産業連関表-その沿革と作成方法-」ではドイツの産業連関表作成の沿革,作成方法が概観され,それらの特徴が明らかにされている。ドイツの産業連関表の作成は個人,民間研究所(ドイツ経済研究所,Ifo経済研究所)の作業から始まる(1950,1960年代)。連邦統計局による作成は,1972年の1965年表が最初で,かなり遅い。連邦統計局による産業連関表作成のこの遅れの理由として筆者は,当該統計局が連関表作成でEC統計局との連携作業を優先させたこと,また連邦政府が産業連関分析にもとづく政策策定に消極的であったことをあげている。官民での産業連関表作成作業が本格化するのは,1970年代である。この時期に連邦統計局は商品べ―スの基本表,RWI経済研究所は商品ベースの延長表,ドイツ経済研究所は産業ベースの産業連関表という分業が明確化し,1980年代の各機関による改善作業と拡充,Ifoをも加えた作業の連携に継承されていく。1990年代に入ると,産業連関表作成は新時代に対応した展開がもとめられ,統一ドイツ対象の産業連関表の作成が日程にのぼり,環境問題への対応が統計計算にもとめられ(環境・経済統合計算[SEEA]),EC標準産業連関表の作成が課題となる。この章ではさらに,1978年表作成時から行われている連邦統計局の産業連関表作成方法の特徴が要領よくまとめられている。

 第2章「産業連関表の日独比較可能性」では,日独経済構造の比較分析の予備的作業として,両国で公表されている産業連関表の比較と組み換え方式の検討が行われている。この手続きによって両国経済の比較可能性が明らかにされ,かつ日本とドイツの産業連関表の特質がより明確になる,というのが著者の眼目である。その具体的な検討は内生部門(評価価格と部門分類),外生部門(最終需要と付加価値),副産物,帰属利子,家計外消費支出,自家輸送,付加価値税の処理という順序で進められる。内生部門に関しては,基本的に日本の部門分類がドイツ型に調整される。その結果として作成されたのが,内生54部門で比較可能な産業連関表である。
第2編「産業連関表からみた日独経済の歩み」
 ここでは組み替え日独産業連関表を使った両国の産業連関比較分析の成果がまとめられている。第3章「産業連関表からみた日独経済の歩み」は60年表と90年表を使った長期比較分析に,第4章「80‐90年代の日独経済の構造変化」は80‐95年表を利用した比較分析にあてられている。マクロ投入産出比較にはじまり,両国の付加価値額格差,国内生産増加,就業者増減の要因分析,影響力係数と感応度係数を使った分析,さらにユニット・ストラクチュアの分析をへてスカイライン分析にいたる膨大な計算結果の概略は,次のようである。
 著者の分析では,60年代にはドイツが日本よりも高度成長を先行させ,国内生産額はもとより輸出構造の定着という点でも前者が後者を凌駕し格差も大きかったが,90年代にこの関係が逆転する。すなわち,90年代に国内生産額,総需要・総供給などの指標で日本はドイツを2倍前後上回った。この30年間に国内生産額の伸びは日本で6倍,ドイツで2.8倍である。これらの成長要因は,日本,ドイツとも民間最終消費の伸びで説明できるが,それは日本で顕著である。他の要因では日本の固定資本形成の増加が,ドイツでは輸出の増加が特徴的である。この後に,著者は部門別分析の結果を詳しく紹介している。
 ドイツの産業連関表が70年代以降,統一形式で定期的に作成されるにいたったという条件整備をふまえ,第4章では内生54部門の産業連関表を利用した日独産業連関比較分析,具体的にはこの時代の輸出入構造の分析,エネルギーを中心とした投入構造分析,就業構造の分析がなされている。日独の輸出は80年代前半で比較的好調であったが,85年を境に低下傾向を示し,この傾向は対ドル相場の影響を受けた日本で,より顕著であった。他方,両国の輸入に関してみると,日本では80年代前半の名目マイナス成長から,80年代後半から90年代前半にかけ成長率が上昇したのに対し(80年代後半実質9.8%,90年代前半の5.0%),ドイツでは名目で一貫した上昇傾向(統一ドイツ実現後はやや低下)がみられた。投入係数は,名目価格では比較的明瞭に,実質価格では緩慢ではあるが日独とも低下傾向にある。影響力係数,感応度係数の計算結果では,前者の日独共通の傾向として道路輸送機械の持続的な上昇が,後者にみられるサービス化の進行が特徴的である。両国の生産段階全体での省エネ傾向が確認されている。日独の大きな相違点としては,石油製品投入率の低下傾向が日本でより顕著であること,電力・熱供給部門での石炭・コークス投入率,ガス投入率でドイツは日本よりかなり高いこと,などの指摘がある。

第3編「産業連関表からみた旧東ドイツとドイツ再統一」
 90年の東西ドイツ統一でドイツ経済がどのように変わったのかは,誰しもが興味をそそられる論点である。この編では,産業連関表を使ってこの問題が解明されている。第5章「産業連関表からみた旧東ドイツとドイツ再統一」では,1996年に公表された旧東ドイツに関する87年産業連関表にもとづいて旧東ドイツ末期の経済構造がマクロ投入産出構造,生産・需要構造,中間投入産出・技術構造,エネルギー投入構造,輸出構造,生産誘発構造,就業と生産性の諸点について,西ドイツのそれとの対比で分析されている。著者の結論は,旧東ドイツがサービス化,ソフト化,情報化に遅れをとる財貨生産偏重の経済であり,計画経済とはいいながらも実際には効率を無視した物動計画にもとづく経済であり,コメコン諸国のなかでは貿易大国であったが,この範囲で輸出による誘発に依存した経済であったということにつきる。この結論は細部にわたる統計数値の検証から導出されたもので,主な論拠として,旧東ドイツの経済の中間投入率,中間投入にしめる財貨の割合の大きさ,民間最終消費構成で食料品,飲食・宿泊サービスの数値が異常に高いこと,電力,ガス,石炭のエネルギー投入率が高いこと,農業就業者の構成比が高いこと,などがあげられている。

 第6章「統一ドイツのゆくえ」では,産業連関表を用いた統一ドイツの経済構造の分析結果が示されている。分析に利用されたデータは連邦統計局作成の旧西ドイツの90年産業連関表,再統一直後の91年産業連関表,ドイツ経済研究所作成の91年ドイツ東西地域産業連関表である。著者の結論は,再統一後の経済構造の変化がそれほど大きくなかったが,その理由はドイツの統一と言っても旧ドイツの経済規模が旧西ドイツの一つの州(ヘッセン州)に相当する程度にすぎなかったからであり,かつ前者の経済が再統一後,低迷していたため,その影響力が小さかったからである。大きな変化は就業構造にあり,西側と東側の移輸出入地域産業連関構造の分析から,前者に依存した後者の体質が明らかにされている。細部にわたる検討で,著者は統一ドイツの様相を浮き彫りにする。第一に,コメコン市場の崩壊により90年には輸出が輸入を上回っていたが,91年にはこの関係が逆転し,自給自足が全体としても,また多くの部門でも100%を割り込んだとの指摘がある。第二に,要因分解分析からは労働投入係数の変化で説明される就業者数の増加が林業・漁業,鉄鋼,非鉄金属,パルプ・製紙,一般機械などの部門で特徴的に示され,これは生産性の古いシステムを稼働せざるをえなかったことの影響であると説明されている。第三に,再統一後の東西移輸出構造の分析では東側が西側に全面的に依存していることである。最後に,著者は90年代前半から半ばにかけてみられた景気後退と失業率の悪化の経済分析を,とくに顕著であった就業者数の減少,就業構造の変貌(サービス化率の上昇)に焦点をしぼって行っている。

第4編「国際産業連関表からみたドイツ経済と日独関係」
 この編で与えられているのは国際産業連関表を使ったEUのなかでのドイツの経済的位置,あるいは日本経済との関係の分析である。第7章「ECの中のドイツ経済-EC国際産業連関表を利用して-」ではまず59‐75年のEC諸国とドイツとの相互依存関係の分析にJ.H.F. Schilderinck作成の国際産業連関表が,85‐90年のそれの分析に通産省作成の日・米・欧産業連関表を加工・調整して作成された英仏独産業連関表が,95年のそれの分析にEC統計局作成のEU15の産業連関表から推計・作成した産業連関表が使われている。著者はこの章の分析全体を通じ,EC諸国経済の相互依存度が進展し,統合が深化している事実を検証したうえで,今後のドイツ経済をEUの枠組みのなかで考察することの必要性を強調し,そのためにはより多くの加盟国を含んだEU産業連関表の充実化が肝要と結論づけている。さらに59年‐75年にEC諸国経済の初期の最終需要の域内依存度が高かったこと,生産誘発の域内依存度と域内波及度を見ると,前者では59‐75年にかけ依存度を高めたが,後者では75年に向けて高まった波及度がこの時点以降低下し,依存関係の深化に停滞傾向があらわれたものの,80年代後半には再び新たな発展の芽が見られたと指摘している。

 第8章「日独経済の産業連関分析-日独国際産業連関表の作成と分析-」では日独の国際関係が通産省の日独2国間国際産業連関表で分析されている。著者は,英仏独の日本からの輸入は最終需要として利用される財の割合が多いのに対し,英仏からの日本の輸入は中間需要として利用される財の割合が多いが,90年にはドイツからの日本の輸入が最終財への傾斜が見られたと結論づけている。著者の分析はさらに続いて,生産誘発依存度の分析では日本の最終需要への依存度が独仏英の順で高く,ドイツについて部門別で見ると,輸送機械,化学製品生産で依存度が高い。日本の生産の最終需要依存度は独英仏の順に高く,これもドイツについて部門別で見ると,電気機械,輸送機械の2部門が日本の生産誘発に寄与する度合いがいかに大きいかが示されている。著者は全体として日独の相互依存関係の強さを,ついで80年代当初は日本のドイツへの依存が大きかったのが,90年代にこの関係が逆転したことを確認している。

第5編「地域と環境の産業連関表」
 第9章「日独地域経済の産業連関比較-バーデン・ヴュルテンベルク州と中部地方-」は,地域産業連関表による国際比較分析である。両地域には,国全体にしめる地域生産額の割合がそれぞれ3番目に位置すること,両地域とも製造業,それも自動車などの機械産業が中心であることなどで,共通項がある。80年代に両地域ではともに移輸出による生産誘発が大きかったが,輸出率が上昇から低下に転じたのに対し,移出率に上昇傾向がみられ,そのことにともなう移出による生産誘発のウェイトの増加,民間と政府の最終消費への依存度の低下が検証されている。より具体的に見ると,両地域では基本的投入産出構造に若干の相違がある。中部地方では機械製品の中間投入率が非常に高く,このことを反映して影響力係数も高いが,これに対しバーデン州でこの比率が高いのはサービス業である。移輸出入構造に関する統計を見ると,両地域とも移輸出率,移輸入率ともきわめて高い。中部地方の自給自足率は日本で最も高い地域であり(とくに輸送機械,ゴム・プラスチック),バーデン地方はそれほどでないとはいえやはりこの比率が高い(一般機械・情報処理機械,輸送機械)。これらの地域での生産額の部門別最終需要依存度(1990年)は,中部地方では輸送機械,建設部門への割合が,またバーデン州では公務,輸送機械,一般機械・情報処理機械へのそれが大きい。最後に中部地方とドイツ,かつバーデン州と日本との貿易関係の統計的検討が行われ,このなかで両地域とも輸送機械の輸出ウェイトの高さが確認されている。

 第10章「二酸化炭素排出構造の日独比較分析」は,産業連関分析を利用した日本のCO2の排出構造の検討にあてられている。使用された産業連関表は,80‐85‐90年日独産業連関表(90年実質価格)であり,CO2データについてはドイツでは連邦統計局作成のもの,日本では環境庁・国立環境研究所作成のものである。著者によれば,CO2の排出の多い部門は日本,ドイツとも電力・熱供給が最大であり,それに続くのが日本では鉄鋼,ドイツでは民間最終消費である。民間最終消費の主要なエネルギー使用量は統計で見ると,一貫してドイツが日本を上回る。民間最終消費のCO2排出でドイツが日本を上回る原因はこの点にある。電力や熱供給は,比較的クリーンなエネルギーと言われるが,例えば電力についてその生産段階で排出するCO2まで考慮に入れるとCO2の排出は多くなり,結果的にドイツでは日本より排出率が高くなる。最終需要項目のなかで民間最終消費の次にCO2を誘発しているのはドイツでは輸出であり,日本では建築投資である。著者は次に両国の80年代における 排出量の増減と排出格差との要因分析を行っている。前者では80年代を前半と後半とに時代区分して分析がなされ,ドイツでは中間投入係数の変化,とりわけ排出係数の低下により,CO2排出の持続的低下がもたらされ,この基本的傾向がこの時期一貫していた。これに対し,日本では80年代前半のCO2排出量は減少したが,その後の好景気とともに排出係数が上昇し,全体としてのCO2排出量が増加する事態が生じた。

 第11章「ドイツ産業連関表の新展開-物的産業連関表の構想と分析-」では環境経済計算体系構築の一環として連邦統計局が作成,公表した物的産業連関表(PIOT:Physische Input‐Output Tabellen)を紹介し,それによる若干の分析がなされている。著者はまず,PIOTが国連の『環境・経済統合計算』(SEEA)を意識して作成されていることを考慮し,後者の一般的概念を念頭にPIOTの基本的枠組みを説明する。SEEAは物質とエネルギーのストックとフローの統合計算であるが, PIOTでは物的フロー(原材料,財貨,残余,有害物質)が自然環境と経済の相互関係を基軸に描かれ,経済活動や国内自然の増減はSEEAの方法に準拠して記述される。経済活動に加え,経済と自然の相互連関表示も対象に入る公表のPIOTは,物的投入(利用)表,物的産出(供給)表,そして物的連関表で構成される。前二者は物質の諸部門への関係づけと,国内経済と自然との関係を詳細に表示するのに対し,物的連関表は物質の種類の区分表示がなく,生産部門,家計の消費活動,固定資産部門などの諸部門間の関連の表示が目的とされる。最後に著者は,フルサイズの物的産業連関表を用いて,ドイツの経済と環境の相互関係に関わる実証分析を行っている。

 以上が大部の著作の内容の要約であるが,産業連関表の記述的利用の見事な成功例であると言わざるをえない。と同時に産業連関表の国際比較という研究領域での礎石となるものであり,比較のためになされた概念調整,組み換え手続と関わる統計技術的処理のノウハウを含めて社会統計学の貴重な財産である。