蝸牛の歩み

「お話」を作ってみたくなりました。理由はそれだけです。やってみたら結構面白く、「やりたいこと」の一つになっています。

シマ

2015-09-11 14:08:46 | 日記
 かなり大きな暴力団が分裂した。
 県警を通じて、政府から「話がある」と連絡があったのは、3日後だった。
 政府の責任者と称する男は、マスクをかけ、サングラスをし、ソフト帽を目深にかぶっていた。第一声から、ボイスチェンジャーを使っていることは分った。
 「シマを差し上げよう」と男は言った。
 分裂組織のヘッドは、「シマ」という言葉から、奇異な感じを受けた。最近政府が「〇〇特区」と言うのを設けているのは知っていた。カジノだとか、密造酒とか。いわゆる「規制緩和路線の一つだろう」ぐらいに思っていた。
 「場所はどこなんだ?」と訊ねた。
 隣国と係争中の島の名前が返ってきた。
 「あの島の事か?」
 「ああ、そうだ、『シマ』だよ」
 「条件は?」
 「簡単だ。実効支配をしてほしい。漁業をやりたいんだったら、やったらいい、農業をやるんならやったらいい」
 「俺たちのノウハウの中には第一次産業はないんだよ」
 「射撃場はどうだ。日本には、すくないからな。拳銃でも、重機関銃でも。何ならロケット・ランチャーでもいいんじゃないか。やりたい奴は日本に結構いると思うがね」
 「資金はどうするんだ」
 「組本体は、世界一の資金力を誇る暴力組織のはずだ。約9兆円。2位が1兆円だから断トツだ。あんなのところも最有力組織の一つだったはずだ、それなりに金はあるだろう」
 「あるさ。ただ、いまおれたちは、あんたたちから頼まれてる。首を縦に振らせるには、それなりのものがいるんじゃないか?」
 ソフト帽の男は、言った。
 「1000億まで用立てよう。貴金属、続き番号ではない紙幣、絶対にアシがつかない預金口座で」
 ヘッドは、ソフト帽の男に自分と同じ人間の匂いを感じた。こちらは民間、向こうは政府。しかし、話をスムーズにつけるのに必要なのは同種のおとこだってことだろう。
 「よし、決まった」とヘッドは言い、いくつかの事務的なことを確認して、ソフト帽と握手した。