蝸牛の歩み

「お話」を作ってみたくなりました。理由はそれだけです。やってみたら結構面白く、「やりたいこと」の一つになっています。

満月の夜に

2015-09-07 19:25:02 | 日記
 今夜は満月だ。夕焼けも美しかった。
 窓のカーテンを開けて、満月に見入っていると、うちの仔がキーボードを踏んで通って行った。どこを踏んだのか不明なのだけれど、わけのわからないメッセ―ジが出てきて、混乱した。とりあえず、一旦シャットダウンするしかない。ベランダに出て、月を眺めていたのだろうか、そのうち帰ってきた。その時に初めて気がついた。窓枠にちんと坐っている姿が机の右側においてある鏡に映っている。

 映っている姿は、私の兄の姿だった。
 私の兄は三歳で亡くなった。兄と生まれたばかりの私は百日咳に罹り、兄は死に、私は生き残った。だから、兄の記憶はない。

 仏壇の中に兄の遺影は置いてある。鏡に映ったうちの仔の姿は兄だった。
 改めて、窓枠に座っている仔を見た。不思議な、見たことのない顔をしていた。「そうなんだよ」という意味なのか、「あ、ばれたか」という照れ隠しなのか、「今頃気がついたのか」という意味なのか。

 死者は、生者を近くで見守っているという説を唱えた民俗学者がいる。生者たちの生活を見晴るかすことのできる小高い丘とかに。

 でも、そうではなかった。もっと近くにいてくれた。その事が嬉しい。