風の向こうに  

前半・子供時代を思い出して、ファンタジィー童話を書いています。
後半・日本が危ないと知り、やれることがあればと・・・。

風の向こうに(第三部)六小編 其の参拾五

2010-05-26 23:35:24 | 大人の童話

六小と別れた夢は、門を出ると校庭沿いにある道を歩いて行きました。六小は

高台に建っています。そのため、少し行って六小の敷地から離れると、道は坂道に

なります。夢は、その坂道を道なりに下りて行きました。すると、戸久野川沿いの

道に出ます。この川沿いの道を行けば駅に着きます。夢は帰り道に、なぜここを

通ることにしたのでしょうか。夢は、自分が子どもの頃見なれていた風景が、今も

見られるのかどうか調べたいと思ったのです。夢が見慣れていた風景、それは、

当時川沿いの道からよく見えていた、大好きな六小の時計台のことです。六小の

建つ丘までの坂道の周りは、当時とちがい、今は家がたくさん建っており、その

風景はだいぶちがっています。はたして、川沿いの道から六小の時計台は

見えるのか、夢は内心、見えないだろうと半分諦めていました。しかし、夢の思いに

反して、時計台はしっかり見えています。夢は、小躍りしながら声をあげました。

「わぁー、まだ見えてる!懐かし~い、良かったぁ~!」

夢の頭のなかに、今夢がいるこの場の、当時の様子がぱあーっと浮かんでは、

走馬灯のように流れていきました。夢は、改めてあたりをながめてみました。

すると、長い年月の間に六小の周りは変わっても、今夢がいるこのあたりは、

ほとんど変わっていませんでした。きっと、それでなのでしょう。時計台が、昔と

変わらず見えたのは。遠くに見える時計台を、じっと見つめる夢の頬には、

ひとすじの涙が伝っていました。しばらくの間、時計台を見つめていた夢は、やがて

時計台に向かい大きく手を振ると、駅の方に向かってゆっくりと歩き出しました。

                                               完   



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