風の向こうに  

前半・子供時代を思い出して、ファンタジィー童話を書いています。
後半・日本が危ないと知り、やれることがあればと・・・。

風の向こうに(第三部)六小編 其の参拾壱

2010-05-20 14:45:16 | 大人の童話

夢は、記念樹から少し離れた所で、もう一度、木を眺めました。青い空に向かって

高く伸びるケヤキの木、その姿はもう、あの細くて弱弱しい感じの木ではありません。

大地に深くどっしりと根をおろし、太くどうどうとしています。そう、六小の校歌に

あるように、ケヤキの若い芽は伸びる命となって、今現在まで力いっぱい、しっかりと

今日を歩いてきたのです。六小の校歌を口ずさみながら、夢は涙ぐんでいました。

そして思ったのです。六小には、これからも元気でいてほしい、と。これは、多くの

学校が閉校となり、精霊が姿を消していくなか、せめてもの夢の願いです。

また、夢がいた時には、樹の横にきちっと『市制施行記念樹』と書かれた立て札が

立っていたのですが、残念なことに40年経った現在では立て札が立っていません。

これでは、何かの時にせっかくの樹が切られてしまうのでは、と夢は心配に

なりました。六小は、そんな夢の心配をよそに、相変わらず楽天家です。

夢の心配を聞いても、

「え~、別にぃ~、いいんじゃない。大丈夫だって。」

なんて言っています。

「大丈夫じゃないよ。」

「大丈夫だって。」

「じゃない・・・。」

そんなやりとりを何回か繰り返したあと、

「ん、もう六小さんは。本っ当に呑気なんだから!」

夢がムッとして言うと、六小は

「いいじゃない、切られたら切られたで。しかたないよ。」

と、さらっと言ってのけます。六小は、ホント呑気です。

「しかたないって、ねえ、六小さん!」

夢は、六小のあまりの呑気さにあきれてしまいました。

「だって、心配したってしかたないもの。わたしが、どうこうできるわけじゃないから。」

どうやら、これが六小の本音のようです。夢は、もう、しようがないなあ、と思いながら

六小に言いました。

「わかったわよ。じゃあ、今日はもう帰るから。」

「もう?わかった。じゃあ、またね。」

「うん。」

そう言って夢は歩き出しました。六小は夢のため、夕方で暗くなりかけた道を、自分が

放つ光でいっぱいにして夢を見送りました。

 

 

 



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