風の向こうに  

前半・子供時代を思い出して、ファンタジィー童話を書いています。
後半・日本が危ないと知り、やれることがあればと・・・。

風の向こうに(第三部)四小編 其の参

2010-04-08 23:19:09 | 大人の童話

バスを降り、辺りを見回した夢は団地の変わりように驚いて声をあげました。

「わぁー、建て替えしてる。」

建て替えしてるのは、全棟数の三分の一ほどで、残りも建て替えするんで引っ越し

したのか、入居している部屋は数えるほどしかありませんでした。夢は、懐かしさで

胸がいっぱいでした。辺りをキョロキョロ見まわしながら団地商店街の方へ行き、

『ああ、そうそう、こうだった、ああだった。あ、あのお店、まだやってたんだ。へぇー、

ずいぶん長くやってるんだなぁ。あ、西友まだある。思い出すな、西友へおつかいに

行った日のことを。懐かしいなぁ。』

などと、思いをめぐらせていたのです。一年生の時に通った道は、あの頃のままの

姿で夢を迎えてくれました。その道を歩いて、やがて、夢は四小に着きました。

 四小は、あの頃と変わらぬ姿で、そこに建っていました。とその時、パァーッと光が

射し、まぶしいほどの輝きが辺りを包み、四十三年前と同じ、あの静かで優しい声が

響いてきたのです。

「まあ、懐かしいこと。会いに来てくれたの?夢ちゃん、いいえ、もう夢さんだわね、

ありがとう。まあ本当に、すっかり大人になって、大きくなったわねぇー。」

昔と変わらぬ、静かな話し方をする四小でした。夢は、胸がいっぱいになりました。

中学生になった時、「これからは、わたしと話すこともなくなるでしょう。」と言っていた

四小です。その言葉通り、中学の三年間、四小と一言も話すことは

ありませんでした。それが、今こうして、もうすっかり大人になった夢に、四小が

語りかけてきたのです。四小は涙ぐんでいます。夢もまた涙ぐんでいました。

 



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