風の向こうに  

前半・子供時代を思い出して、ファンタジィー童話を書いています。
後半・日本が危ないと知り、やれることがあればと・・・。

風の向こうに(第三部)四小編 其の五

2010-04-11 23:31:57 | 大人の童話

四小の光に包まれた夢は、校庭側に行き、校舎の前にある階段に腰かけて、

まぶしげに四小を見上げながら話し始めました。

「懐かしいな、ここ。あの頃と変わってないね。変わったことといえば、桜の木が

植わり、その木が大きくなって、四小さんの体を隠しているってことくらいかな。

四小さん自身も、あの頃と全然変わってないし。」

四小は、ふっとため息をついて言いました。

「変わったわよ。あれから、もう四十三年もたったんですもの。だいいち、わたしの

ところにいる子どもたちが減ったわ。夢ちゃんの頃は八百人くらいいたけど、今では

七十八人よ。」

それを聞いて、夢は驚いたようにかえしました。

「七十八人?なんで、そんなに少なくなっちゃったの?団地の建て替えのせい?」

四小は、横に首を振って淋しそうに答えました。

「それもあるけど、それだけじゃないと思うわ。まずは少子化、それから、わたしの

通学区の狭さね、きっと。」

夢は、『ああ。』と納得しました。実は、夢が高校生の時、市の人口はピークに

達していました。四小も、子どもの数が増えて満杯状態だったのです。そこで、

市は四小の近くに、もう一校小学校を造ったのです。ところが、あまりに四小に

近すぎて、四小の通学区が狭くなってしまったのです。

「まあ、でもこれも社会の変化で、しかたないことかもしれないわね。」

「四小さんのところの子が減ってしまったこと?」

「ええ。」

四小は、まだ何か言いたげでしたが、何も言わずにそれだけ言うと、夢に向かって

淋しそうに笑いかけました。夢は、四小の淋しげな笑顔が気にはなりましたが、

四小が何も言わないので、そのまま黙っていました。