東北アルパインスキー日誌 ブログ

東北南部の山での山スキー、山歩き、山釣りなどと共に、田舎暮らしなどの話を交えながら綴っています。

黒伏山南壁 中央ルンゼの初登攀争い その1

2007年06月21日 | クライミング

すっかり山から遠ざかってしまい、暇な毎日をダラダラと過ごしている日々ですが、昔の山の先輩筋のS氏から突然電話がかかって来た。暇だったら明日の夕方、仙台の文化横丁まで出て来いとのお達しで、特に用事も無い身の上なので思わず「ハイ承知」と返事をした。
実はこの方はとんでもない酒豪の人で、山岳会に在籍していた頃には「酒の嗜み」を死ぬほど叩き込まれた方。かつて仙台の国文町でサシで呑んでいた時には、胃液を出し切ってからもハシゴを強いられた思い出が有り、どちらかと言うと恐怖感さえ伴う人。しかし「岩と雪」の希少本を多量に譲り受けた関係上、断る理由など無くノコノコど出かけた。

S氏今では私と違って潔く山からは遠ざかり、青森あたりでブリのルアー釣りを極めた名人の様な人。かつて素晴らしい登山歴を持ちながら、すっかり山を廃業出来る潔さには何か尊敬出来る興味深い人でも有る。でも今回は是非聞いてみたかった事が有った。酔っ払う前にメモを取っておいた理由は、S氏が黒伏山南壁 中央ルンゼ開拓の頃を知る人で、殆ど知られていない初登攀争いの張本人だったからである。
 
中央ルンゼルートは今や全国的にメジャーなルートとなり、首都圏からも多くのクライマーを迎える東北では異色の人気ルートとなっている。確かにあのブッシュだらけの壁に刻まれた一本の急峻なルンゼは、登ってみて初めて体感できる感動がある。乾いた安山岩のフリクションは抜群で、日本でも特異と思われる井戸の底の様な、美しいクーロアールを大胆に攀じて行く。全てをフリーで完登出来るクライマーは尊敬に値する。

しかしこのルートの初登攀者はいったい誰なのか?そう思った人も多いと思いますが、残念ながらその当時の記録は殆ど残っていない、いや、殆ど記録を残さなかった。現存する記録と言えるのは「日本登山大系」白水社、「日本の岩場 改訂版」白山書房、「岩と雪」山と渓谷社しかない。しかし「日本登山大系」「日本の岩場」の解説と記録には開拓期の記録はすっかり抜け落ちており、しかもそのいずれも、基本的な誤りや見過ごされた記録なども見られる。また、仙台RCC 相沢氏による、「岩と雪」の黒伏山の詳細な岩場特集が有るが、やはり肝心な開拓期の記録は無く、記述内容には正確さが足りない部分も見られる。また、この本は今となっては入手困難で、中央ルンゼを訪れる現役のアルパインクライマーには殆ど知られていない。

しかし当時の話を聞いてみると、今では有り得ない様な初登攀争いがあって、東北の片田舎であっても熱く燃えるような時代が有った様です。つまりこのルートが完登されるまで、あるいは冬季に初登攀が成されるまでのドラマが有り、知られざる多くのクライマーが活躍していた。特に冬季の初登攀はレベル的にも高く、難易度では谷川岳の冬季登攀を凌駕するレベルの記録とも言われている。

これだけ素晴らしく価値有るルートでありながら、その素性がまったく知れないと言うのは残念で、いずれ少しづつ紐解きながら明らかにしたいと思う。
結局S氏とは寿司や・ホルモン屋・高級居酒屋?・フランス料理店の4軒をハシゴさせれられ、ようやく無罪放免してもらった。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする