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読書の森

見えない鎖 その2

いくら、精神病歴(?)があるにしても、悟が専制君主だとしても、身近な人間の殺人など麻友に出来る訳がない。
第一無理である。彼女が計画的な完全犯罪を企もうとも、企んだ段階で夫が分かる仕組みになっている。

何故なら麻友に個室は与えられてはいるが、それは非常に居心地の良い病院の個室と同じ作りになっているからだ。患者を見守る為にカメラやマイクが仕掛けられている事を麻友は知っている。
相当に能天気な彼女は結婚後しばらくしてから、この事実を知った。

一番情報が伝わりにくそうな手紙、日記をこの事実を人に訴える手段にしようにも、彼女の読み書きする行動はカメラで丸見えなのだ。
麻友はその息苦しさに外出したいという衝動に駆られる。
ところが自由に買い物する事もままならない。
瀟洒な住まいに見える自宅は出入り口が一箇所に限られる。麻友が外出すれば秘書に通じる形になる。

「私は囚人と同じだ。私に今精神病的な症状があるとしたら拘禁ノイローゼだけだ」と彼女は思う。




ただし、麻友は与えられる薬のおかげか、極めて規則正しい日常生活を送っている。快適な空調の部屋で睡眠時間は充分取れるし、「ああしろ、こうしろ」と命令された事もない。

麻友は決まった時間に個室で起き、身支度を整え、食事を作って夫を送り出してからパソコンを見る、任意の時間に一日買い物兼散歩できる。
麻友が例の院長夫人と近隣住民は知っているから極めて丁重に扱ってくれる、その際に夫から与えられたカードで好きな服を選べ好きな食材を買える。
夫の好みに合わせろなどと悟が強制した事は一切ない。

麻友が不思議なのは新婚当初の夫との夜の生活である。
20年間に及ぶ結婚生活の中で、麻友は夫とSEXした記憶がないのだ。

夫が不能でないということを麻友は知っている。
何故なら悟には別の女性に産ませた子供がいるからだ!その子は乳幼児の時不幸な死に方をしたと言う。

そして、それをその子の母親(夫の女)の口から麻友は聞いた。
それが、某有名ホテルで開いた悟と麻友の豪華な結婚式当日だった。








読んでいただきありがとうございました。

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