面白く読んでいただければ幸いです。
(尚舞台は1960年代の公立高校でございます ^ ^)
「さようなら」
今日こそ言おう。さりげなく明るく言って通り過ぎる。
(そして思い出したふりして後ろ向いて話かけるのだ。
「今日の幾何の時間ねえ」
その時彼女は三角関数が難解とか言ってた。俺は自慢じゃないが幾何得意で今日の授業くらいならヘイチャラだ。
ここで何気に三角関数の話を始めたいけどワザとらしいか?)
下校時に彼女と出会う時、無視するふりして通り過ぎるのが何時もの事だ。目が合えばドギマギするに決まってる。挨拶する時に笑顔を作ったつもりが阿呆みたいにだらしない顔になるかも知れない。
夜間、彼女の事考えてモヤモヤして試験勉強が捗らない、こんな事が毎日続いたら難関大学に落ちちゃう、大学入試が大事なのか?彼女が大事なのか?そんな事どうでも宜しい。
ただ帰りの挨拶するだけじゃないか。
恥ずかしい事に俺が武者震いに似たものを感じて、、、声をかけようとした、その瞬間。
「中治い。おい中治。何ぼんやりしてんだよ」
大声をかけた藍沢の赤ら顔が俺には世にも汚らしく見えた。
応える代わりに俺はブスっと横を向く。
「なんか見えたのか?」
藍沢はキョロキョロ周りを見回す。
その視線が、澄ました顔して前を歩く彼女のスリムな姿を捉えた。
「おっつ、居るよ!良かったなあ」
(何が良かった。冗談じゃない。生まれて初めて好きな子と話すチャンスを潰しやがって!)