聴覚障害、口唇口蓋裂、内分泌不全、無嗅覚、WPW症候群、まだあったかな、と思うほどいろいろな困難を抱えて生まれてきた私の息子は、赤ちゃんの時からさまざまな方から多くの支えをいただきながら、育ってまいりました。同じような障害をもつ子どもを育てている親たち仲間やご指導くださる先生方、また同じ障害をもった成人の方々、医療・療育関係の方々、本当に多くの人々に助けられ、挫けそうになったときは多くの勇気をもらい、今まで歩んできました。
その中で特に私にとって心の友というか、信頼できる頼もしい年下の同志とも呼べる人がいます。病いを得、あまり私が出歩けない時期や息子が困難さにぶつかり躓いている時、電話一本で私を原点に戻し、大事なことはそんなことじゃないでしょう、もっとしっかりと見つめなさいと教え諭してくれるかけがえのない友です。
口唇口蓋裂という先天的な疾患をもつ彼女が、最近一冊の小さな本を出しました。
「揺れる心と向き合いながら -遺伝を覚悟で子どもを産む-」(大木聖子著) という本です。
メディカ出版から発行されている「ペリネイタルケア」誌で2012年1月から2013年7月まで全19回連載されたものを加筆、修正したものをまとめたものです。
口唇口蓋裂という疾患は、500人に一人生まれる確率を持つ疾患ですので、少し大きめの小学校には口唇口蓋裂のお子さんが一人はいるだろうと思われる、わりによく知られた疾患だと思います。
息子のようにほかの症候群に合併症として現れる突発性の場合もあれば、原因不明の出現疾患であったり、家族性の遺伝的な疾患の場合もあります。母体の状態から出現するという場合もあるようです。一時葉酸の不足から起こる可能性があると言われ、妊婦に葉酸サプリを飲ませるようにすすめる動きもありました。
我が家の場合は、家族全員の遺伝子検査の結果、原因はわからないが突発的に息子の遺伝子だけが傷つき、症候群のなかの一つの現出疾患として口唇口蓋裂というものと出会ったということでした。
そのことが判明したのは、遺伝子検査が一般患者でも可能になった時期、息子が高校生のころだったでしょうか。
それまでは、自分のお腹から生まれた我が子に先天的な疾患があると知らされた多くの母親が考えることと同じだと思いますが、自らの身体からの原因ではないか、何か生活習慣のなかにイケないことがあったのではないかなどと、原因探しと自分を責める日々がありました。
口友会という口唇口蓋裂の患者団体の活動の中で、産婦人科医の丸本百合子先生の講演をお聞きすることができ、障害というものは人の進化の過程に組み込まれているものだ。100体の出産があったらそのうち1例か2例にはなんらかの障害児の出産が織り込み済みで、それはまだはっきりとはわからないが人間の進化のためにきちんと用意されていたもので、その障害のある子を産んだことはその両親がその責を負うものではないし、まして責があるものでもない。当たり前のことのなかの一つの例として、たまたまあなたのお子さんに障害のある子が生まれただけで、それは母親が自分を責めたり、自分たちの責任だと両親だけで抱え込むものではない、というお話をしてくださり、とても私自身心が軽くなったのを覚えています。
また、尊敬する生命科学者である柳澤桂子氏も「私ではないあなた、私の代わりにこの障害のある子を育ててくれるあなた」という言い方で、障害に出会うのはだれであっても不思議ではない、また障害というものは太古の昔から人間の出産に出現しているもので、それが淘汰されずに21世紀にも出現しているということは、なんらかの必要、人間の進化の過程のどこかでその障害があることが必要とされる事態がおこりうるからで、だから完全淘汰されずに今の現代にも障害のある子が生まれてきているのだろうと書いてくださっています。
彼女は口唇口蓋裂という疾患をもって生まれ、多感な思春期に自分の母親も同じ疾患をもっていることを知り、それからの日々を悩み、苦しみながら、真の意味で母親と出会うことなしに早めに母親との死別を迎えてしまうのです。
彼女一人で担うには、あまりにも重すぎる課題なのに、真摯で健気な彼女は懸命に考え、そして一つの結論を出すのです。遺伝的な疾患をもつ自分は子どもを産まない、そして人を愛して結婚することもないだろう、と。
そんな彼女も恋をし、人を愛して結婚するときを迎えました。結婚してくれて、本当によかったと私は思います。かつて同じような思いを持っていた私にとっては、彼女を優しく受け入れてくれた朴訥ともいえる旦那様の存在が、この本のとても素敵なポイントになっています。
君のご両親が君をこうして立派に育ててこられたのだから、自分にもきっと生まれてくる子を育てることができるだろう。素直な実直な、そして飾らない愛を感じるご主人の言葉だと思います。
そして、彼女は最初のお子さん、同じ疾患をもって生まれた娘さんと出会うのです。この小さな本は、彼女からその娘さんへ宛てられて書かれた長い手紙のような面も持っています。
2014年の現在、当たり前のように出生前診断が行われているこの日本の現状の中で、彼女の問いかけはどこまで届くのかわかりませんが、私はこのような「本」という形でまとめられたことがことのほか嬉しく、勇気づけられた思いです。
障害をもって生きるということ、障害や疾患をもって生まれるということ、誰にでも起こることではないけれど、そのことは誰にでも起こりうることなのです。
私自身は息子が聴覚障害をもって生まれ、新生児期にその障害の可能性を指摘された親として、長年、新生児聴覚スクリーニング検査の問題に取り組んできました。
産後すぐの心も身体も不安定な時期に生まれたばかりの我が子の障害の可能性を告げられる母親の立場から、ちょっと待って、もっとその前に必要なことがあるのではないかと医療関係者、療育関係者、教育関係者の方々などに訴えてきました。
彼女の本を読むと、改めて出生前診断の大きな問題を考えずに居れません。今、どんな固い決心のもと、出産を決心したとして、遺伝子検査や出生前検査であなたのお子さんには障害がある可能性が高いですよと医療側から伝えられたら、どうやってその決心を貫き通すことができるでしょうか?
私には自信はありません。なぜなら、どの親も障害のある子を産むまでは障害に関しては素人なのですから。私自身も素人から出発して、たくさんの方々に育てられながら今までやってこられたのですから。
これから子供を産もうと思っている方々、またそれを支える出産時の医療スタッフ、障害があったときに通うであろう療育機関の関係者、障害児教育の関係者の方々にはぜひこの本を手に取り、一人で担うには重すぎる荷を背負って、歩んできた一人の女性の心からの問いかけに耳を傾けていただきたいと願っています。
大木さん、本にしてくれてありがとう。あなたの勇気と現在までのたゆまない歩みに大きな敬意を表します。
その中で特に私にとって心の友というか、信頼できる頼もしい年下の同志とも呼べる人がいます。病いを得、あまり私が出歩けない時期や息子が困難さにぶつかり躓いている時、電話一本で私を原点に戻し、大事なことはそんなことじゃないでしょう、もっとしっかりと見つめなさいと教え諭してくれるかけがえのない友です。
口唇口蓋裂という先天的な疾患をもつ彼女が、最近一冊の小さな本を出しました。
「揺れる心と向き合いながら -遺伝を覚悟で子どもを産む-」(大木聖子著) という本です。
メディカ出版から発行されている「ペリネイタルケア」誌で2012年1月から2013年7月まで全19回連載されたものを加筆、修正したものをまとめたものです。
口唇口蓋裂という疾患は、500人に一人生まれる確率を持つ疾患ですので、少し大きめの小学校には口唇口蓋裂のお子さんが一人はいるだろうと思われる、わりによく知られた疾患だと思います。
息子のようにほかの症候群に合併症として現れる突発性の場合もあれば、原因不明の出現疾患であったり、家族性の遺伝的な疾患の場合もあります。母体の状態から出現するという場合もあるようです。一時葉酸の不足から起こる可能性があると言われ、妊婦に葉酸サプリを飲ませるようにすすめる動きもありました。
我が家の場合は、家族全員の遺伝子検査の結果、原因はわからないが突発的に息子の遺伝子だけが傷つき、症候群のなかの一つの現出疾患として口唇口蓋裂というものと出会ったということでした。
そのことが判明したのは、遺伝子検査が一般患者でも可能になった時期、息子が高校生のころだったでしょうか。
それまでは、自分のお腹から生まれた我が子に先天的な疾患があると知らされた多くの母親が考えることと同じだと思いますが、自らの身体からの原因ではないか、何か生活習慣のなかにイケないことがあったのではないかなどと、原因探しと自分を責める日々がありました。
口友会という口唇口蓋裂の患者団体の活動の中で、産婦人科医の丸本百合子先生の講演をお聞きすることができ、障害というものは人の進化の過程に組み込まれているものだ。100体の出産があったらそのうち1例か2例にはなんらかの障害児の出産が織り込み済みで、それはまだはっきりとはわからないが人間の進化のためにきちんと用意されていたもので、その障害のある子を産んだことはその両親がその責を負うものではないし、まして責があるものでもない。当たり前のことのなかの一つの例として、たまたまあなたのお子さんに障害のある子が生まれただけで、それは母親が自分を責めたり、自分たちの責任だと両親だけで抱え込むものではない、というお話をしてくださり、とても私自身心が軽くなったのを覚えています。
また、尊敬する生命科学者である柳澤桂子氏も「私ではないあなた、私の代わりにこの障害のある子を育ててくれるあなた」という言い方で、障害に出会うのはだれであっても不思議ではない、また障害というものは太古の昔から人間の出産に出現しているもので、それが淘汰されずに21世紀にも出現しているということは、なんらかの必要、人間の進化の過程のどこかでその障害があることが必要とされる事態がおこりうるからで、だから完全淘汰されずに今の現代にも障害のある子が生まれてきているのだろうと書いてくださっています。
彼女は口唇口蓋裂という疾患をもって生まれ、多感な思春期に自分の母親も同じ疾患をもっていることを知り、それからの日々を悩み、苦しみながら、真の意味で母親と出会うことなしに早めに母親との死別を迎えてしまうのです。
彼女一人で担うには、あまりにも重すぎる課題なのに、真摯で健気な彼女は懸命に考え、そして一つの結論を出すのです。遺伝的な疾患をもつ自分は子どもを産まない、そして人を愛して結婚することもないだろう、と。
そんな彼女も恋をし、人を愛して結婚するときを迎えました。結婚してくれて、本当によかったと私は思います。かつて同じような思いを持っていた私にとっては、彼女を優しく受け入れてくれた朴訥ともいえる旦那様の存在が、この本のとても素敵なポイントになっています。
君のご両親が君をこうして立派に育ててこられたのだから、自分にもきっと生まれてくる子を育てることができるだろう。素直な実直な、そして飾らない愛を感じるご主人の言葉だと思います。
そして、彼女は最初のお子さん、同じ疾患をもって生まれた娘さんと出会うのです。この小さな本は、彼女からその娘さんへ宛てられて書かれた長い手紙のような面も持っています。
2014年の現在、当たり前のように出生前診断が行われているこの日本の現状の中で、彼女の問いかけはどこまで届くのかわかりませんが、私はこのような「本」という形でまとめられたことがことのほか嬉しく、勇気づけられた思いです。
障害をもって生きるということ、障害や疾患をもって生まれるということ、誰にでも起こることではないけれど、そのことは誰にでも起こりうることなのです。
私自身は息子が聴覚障害をもって生まれ、新生児期にその障害の可能性を指摘された親として、長年、新生児聴覚スクリーニング検査の問題に取り組んできました。
産後すぐの心も身体も不安定な時期に生まれたばかりの我が子の障害の可能性を告げられる母親の立場から、ちょっと待って、もっとその前に必要なことがあるのではないかと医療関係者、療育関係者、教育関係者の方々などに訴えてきました。
彼女の本を読むと、改めて出生前診断の大きな問題を考えずに居れません。今、どんな固い決心のもと、出産を決心したとして、遺伝子検査や出生前検査であなたのお子さんには障害がある可能性が高いですよと医療側から伝えられたら、どうやってその決心を貫き通すことができるでしょうか?
私には自信はありません。なぜなら、どの親も障害のある子を産むまでは障害に関しては素人なのですから。私自身も素人から出発して、たくさんの方々に育てられながら今までやってこられたのですから。
これから子供を産もうと思っている方々、またそれを支える出産時の医療スタッフ、障害があったときに通うであろう療育機関の関係者、障害児教育の関係者の方々にはぜひこの本を手に取り、一人で担うには重すぎる荷を背負って、歩んできた一人の女性の心からの問いかけに耳を傾けていただきたいと願っています。
大木さん、本にしてくれてありがとう。あなたの勇気と現在までのたゆまない歩みに大きな敬意を表します。
先般来、図書館から借りて読み続けていた上記の本、とても興味深く読み終わりました。
ADHD、自閉症、ディスレクシアなどの発達障害だけではなく、うつ病などの気分障害、不安障害、統合失調症、知的遅滞などの脳から派生するいくつもの症例をプラスの面から読み解いて、私たちが普段見ることのできないでいる風景を展開しれくれる魅力的な本でした。アメリカらしくプラスの面からのアプローチが豊富で、脳の多様性の未来への展望が開かれるようでした。
均一化した社会への違和感、「ふつう」の人などはどこにもいないのに、どうしても「ふつう」というものにとらわれがちな私たち人間の気持ち、その中で個性的な脳をもった素晴らしい人たちを支援し、その魅力的な才能を開花させて、生きていく力を与えていこうという特別支援教育に携わったいた著者ならではの視線が、個性的すぎる脳をもった子供を育てている我々を勇気づけてくれることは確かです。興味のある方はぜひご一読ください。
なお、大木さんの本に関心を持たれ、購入を考えてくださる方は私宛にメールをお送りください。手数料・送料代として300円の切手をお送りくだされば、本を送付できると思います。また、お知り合いに出生前診断に関してご興味のある方々にぜひ広げていただければ幸いです。
大木さん本人からの送付になりますので、彼女にBUKUの住所など知らせますがよろしいですね。