エリクソンの小部屋

エリクソンの著作の私訳を載せたいと思います。また、心理学やカウンセリングをベースに、社会や世相なども話題にします。

#生きがい喪失の罠 #右往左往

2018-07-11 05:25:42 | ヴァン・デ・コーク教授の「トラウマからの
 
現世考: #希望を謳歌する人 #山下達郎
  発達トラウマ障害(DTD)の診断も、オーダーメイド?    子どもが繰り返しやることには、計り知れない価値がある   あなたは生きていて良いんだよ!  対等......
 

 

 ヴァン・デ・コーク教授の  The body keeps the score : brain, mind, body in the healing of trauma 『虐待されたら、意識できなくても、身体はその傷を覚えてますよ : 脳と心と身体がトラウマを治療する時どうなるか?』

 6章。「身体を失くすと,本当の自分も失くすよ」,p.97,ブランクから。ここ何日かの部分もご一緒に。





ダマジオは,この「目隠し」が,自分自身の様々な問題を,自分に都合良く,外の世界に押し出すように心がけて,働く仕方を説明し続けます。しかし,それは高い代償を支払うことになります。「自分の課題を自分に都合よく人のせいにすることは,私どもが本当の自分と呼ぶものが,可能性に満ちた源であり,そういう可能性に満ちた本質がある事を,感じ取れなくなってしまいます」とダマジオを言います。ウィリアムズ・ジェームズの100年前の著作に基づいて,ダマジオが論じたのは,自意識の核心は,身体の内的な状態を知らせる体感にある,ということです。



始まりにある様々な気持ちのおかげで,私どもは,自分の身体が生きている実感を感じることが出来ます。その身体が生きている実感は、言葉になりませんし,飾り気もなく,只々,生きている,ということ以外の、何者でもありません。この始まりにある様々な気持ちが,様々な次元で沿った身体のいまここの状態を映し出しています。…喜びから痛みまで測る物差しに沿って,大脳皮質よりも(訳注:脳の内奥,原始的な部分で,呼吸その他の生命維持を司る)脳幹のレベルから始まるものです。いろんな気持ちを感じること全てが,初めにある様々な気持ちを土台にするいろんな音色なのです。

 

 私どもの感じる世界が形作られるのは,生まれる前からです。子宮の中で,自分の皮膚を羊水が押すのを感じていますし,流れる血液の音や消火器が動くのが,かすかに聞こえますし,お母さんがいろいろ動くのに合わせて,伸びたり丸まったりしています。生まれた後は,自分との関係と身の回りとの関係を体感が決めます。私ども人間は,オシメを濡らし,おなかペコペコで,アキアキして,眠たいところから始まります。訳の分からないいろんな音,訳の分からないいろんなイメージが,心に響かないこととなって,私どもの末梢神経に押し付けられて,傷を残します。意識と言語を手に入れた後でも,私どもの体感システムは,記憶と記憶を繋ぐ,とても大切なフィードバックをしています。体感が常に人間らしい伝えあいをすることは,お腹の中で,顔や胴体や四肢の筋肉の中で,変化しますから,痛みや心地よさや,空腹と性欲といった刺激がお知らせとなっていきます。私たちの周辺でいま起きていることは,私どもの体感を刺激します。今いると分かっている人を見ること,特定の,例えば,音楽の一部だとか,サイレンを聞くこと,温度が変化したことを感じることは,全て,私どもの意識の焦点を変えますから,そういった体感に気づかなければ,体感の後にくる,様々な大切な考えや行いも,生まれません。

 今まで見てきたように,脳の仕事は,私たちの中と周りに起きていることをよく観察して,評価することです。このいろんな評価は,血中の化学的なメッセージや,神経の電気的なメッセージになって,身体と脳を通して,ほのかな,あるいは,劇的な変化をもたらします。こういったいろんな変化は,全く意識なしに,全然気付かぬうちに,起こります。脳の大脳皮質の下にある部分(訳注:脳幹)は,呼吸,心拍,消化,ホルモン分泌,免疫システムを調整することに,ビックリする位影響します。しかし,こういった身体の仕組みがうまく働かなくなるのは,いつも脅かされ,あるいは,脅かされるかもしれないといつも感じたりする場合です。大脳皮質の下にある部分が機能停止していると考えると,トラウマを負わさせた人々を研究者たちが記録した様々な身体の問題が腑に落ちます。

 しかし,私どもの意識的な本当の自分も,心の中のバランスを保つ上でとても大切な役割を果たします。自分の身体を安全に保つためには,自分の体感を覚えて,体感に気づいて関わる必要があります。寒さに気づくからこそ,セーターを着こむことができます。お腹が空いたり,ボォーとしていると感じるから,血糖値が下がったことが分かって,お菓子を食べたくなります。膀胱がパンパンになれば,トイレに駆け込みます。ダマジオが指摘していることは,育ってくる中で感じた様々な気持ちが,生命を維持するさまざまな働きをコントロールする領域の近くにありますよ,ということを脳の仕組みすべてが覚えている,ということです。その命を維持するさまざまな働きとは,呼吸,消化吸収,排せつ,睡眠と覚醒のサイクルなどです。「これは,気持ちを感じ,意識を向ける,といった一連の働きは,身体内で命を維持する根源的な働きとピッタリと関係しているからです。身体内の今の状態に関するデータなしに,命とホメオスタシスのバランスを保つことはできません。」とダマジオは言います。ダマジオは,脳の生命維持の領域を「私の源」と呼んだのは,「私の源」になっている脳の領域が,「言葉にならない体得底」を作り出して,私どもの意識的な本当の私を根源的に支えているからです。


 脅かされた時の本当の私


 2000年に,ダマジオは仲間とともに,世界一の科学雑誌『サイエンス』に,1つの論文を載せました。その論文は,繰り返し蘇る否定的な感情のために,筋肉,内臓,皮膚から神経信号を受け取る脳の領域が,重要な変化を起こす,ということを報告したんです。筋肉,内臓,皮膚からの神経信号は,身体がうまく働く根源的な働きを整える際に非常に大切なものです。ダマジオの研究チームがとった脳画像が示していることは,過去の感情的な場面を思い出すと,昔出会ったもともとの出来事の間に感じていた体感を実際に何度も体感することになる,ということでした。たとえば,脳幹の特定の領域が「悲しみと怒り」の中で働いたものの,「幸せや恐怖」の中では働きませんでした。体感を感じる脳の領域全てが,大脳辺縁系の内側にありますし,様々な感情が割り当てられている所ですが,様々な強い感情が身体と結びいた,さまざまな共通の表現をするたびに,昔感じた様々な気持ちに巻き込まれることになります。すなわち,「お前にはうんざりするよ」,「虫唾が走ったよ」,「イラッときて」,「ガッカリ」,「むかつくんだよ」。

 脳幹と大脳辺縁系の中にある,基本的な本当の自分の仕組みがひどく活動的になるのは,殺されるかもしれないし,生きていけないかもしれないと人が怯えるときですから,その結果,生理的に強く興奮するとともに,恐怖と怯えに圧倒されます。1つのトラウマを繰り返し生きている人々にとっては,周りで何が起きているのか何にも分かりません。1つのトラウマを繰り返し生きている人々は,生きるか死ぬかお決まりの状況に,いつも,陥ります。生きるか死ぬかのお決まりの状況とは,怖くて何にもできないか,やみくもに激しい怒りを爆発されるか,という状況です。心身とも,いつも刺激を受けて,まるで,差し迫った危険があるかのようです。心身とも,かすかな音にも,ビックリしてドキドキしますし,ちょっとイラッとくるだけで,気持ちが折れてしまいます。睡眠はいつも途切れ途切れで,食べても,おいしくありません。かすかな音でも引き金になりますから,ゾッとして凍り付くか,解離を起こすかして,こういったつらい思いを,死に物狂いで締め出そうとします。

 どうすれば,自分をコントロールする力を取り戻せるのでしょうか? 動物的な脳が,生き残りを懸けて戦う中で,働かなくなった時に。動物的な脳の内側で起きていることが示すことが,私どもが感じているものだとすれば,また,私どもが感じている体感が,皮質下の(無意識に働く)脳の仕組みによって,組み立てられているとすれば,その体感と,体感を司る皮質下の脳を,私どもはコントロールする力があるのでしょうか?


 生きがい:命の持ち主になること


 「生きがい」とは,自分の人生を任されていると実感に対する専門用語です。自分の立場を弁え,自分に起きていることに口を出す権利があることも分かっていますし,自分の状況は自分で作り出せる力もあることも知っています。アメリカ退役軍人局の建物の壁をぶち抜く退役軍人は,生きがいを主張しようとしていたんでしょう,事を起こしたかったんでしょう。しかし,結局は,一層,何もできないと感じて,かつては自信があった多くの人が,狂ったようなことと,引きこもりの間を右往左往する罠にかかっていました。

 


 神谷美恵子さんの話とも通じます。

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