先月に引き続き、初代国立劇場さよなら特別公演を観てきた。今月も3等席、4,000円の3階席だ。前月に比べれば観客はかなり入っていたが、2階席は空いている席が目立った。車で来たが駐車場料金が500円というのがうれしい、歌舞伎座だと確か2,700円だ。
今日来て菊五郎(81)が体調不良のため休演となっていることに驚いた。3日に発表があったようだが気づかなかった。菊五郎は2日に誕生日を迎えたばかりだ。愛着があった国立劇場最後の公演に出れないのはさぞかし残念に思っていることだろう。
今日の国立劇場だが、先月と違い、花道は通常通り舞台に向かって左手に1つだけになっている。また、国立劇場は歌舞伎座と違い、桟敷席がない。これも今日で見納めだ。
通し狂言 妹背山婦女庭訓、三幕四場<第二部>
近松半二=作、戸部銀作=脚本、高根宏浩=美術
序 幕 布留の社頭の場「道行恋苧環」
二幕目 三笠山御殿の場
大 詰 三笠山奥殿の場
同 入鹿誅伐の場
藤原鎌足:尾上菊五郎⇒時蔵
豆腐買おむら:中村時蔵
杉酒屋娘お三輪/采女の局:尾上菊之助
宮越玄蕃:坂東彦三郎
烏帽子折求女 実ハ藤原淡海:中村梅枝
荒巻弥藤次:中村萬太郎
入鹿妹橘姫:中村米吉
大判事清澄:河原崎権十郎
漁師鱶七 実ハ金輪五郎今国:中村芝翫
蘇我入鹿:中村歌六
大化の改新(645)に関連した作品で、飛鳥時代の話。だが、橘姫の振る舞いは平安朝、お三輪は江戸庶民風など江戸時代にできた歌舞伎では時代考証は全くなされていないのが特徴とイヤホンガイドで言っていた。
苧環(おだまき)の苧(お)というのは麻糸のこと。これをくるくる巻いたものが「おだまき」。芝居で使うのは、糸巻きに持ち手のついたかわいらしいもの、赤糸と白糸をそれぞれ巻いた2本の苧環、2本の糸を結び合わせて男女双方で持って、変わらぬ仲を祈る。
「道行恋苧環」は有名な所作(踊り)。橘姫とそれを追う求女(もとめ)、そこに嫉妬に狂った造り酒屋の美しい娘お三輪が登場するが、橘姫は去って行く。追う求女は苧環の赤い糸を橘姫の着物のすそに縫い付け糸を頼りに橘姫を追い、お三輪も白い糸を求女の着物に付け二人を追う。出演者3人はセリフがない踊りだけ、竹本連中が義太夫節で語る。上演時間は約30分。
「三笠山御殿の場」では、入鹿の三笠山御殿に漁師の鮒七(実は鎌足の家臣)が来て、入鹿の動きを探るためわざと人質になる。橘姫が御殿に帰還し、追ってきた求女が鎌足の息子淡海と知るが、愛する求女に協力を誓い兄の入鹿を裏切る。お三輪も到着するが官女に虐められ、最後に鮒七に嫉妬に狂った女の生血で入鹿を殺せると言われ、惚れた求女のためになるなら、として刺し殺される。上演時間が約2時間。
「三笠山奥殿の場」と「入鹿誅伐の場」では、お三輪の生血と鹿の血を降り注いだ笛の音により入鹿は追い詰められ、宝剣を鎌足率いる軍勢に取り戻され、天下は太平になる。上演時間は15分。
「三笠山御殿の場」は2時間近い上演で、かつ、内容的にもちょっと退屈するところがあり、疲れた。ただ、3幕目が短かったので救われた。
この演目の女庭訓とは、女性が守るべき作法という意味。この演目の中で、お三輪は愛する求女のためになるならと、自分が犠牲になり、自分の生血を蘇我入鹿の誅殺のために利用することに納得する、また、橘姫も惚れた求女のためになるならと肉親の入鹿を裏切り三種の神器の宝剣を奪う。この女性の生き方がこの物語の核心となっているので演目名に女庭訓という用語が使われている。
今日の公演の出演者では、なんと言っても、橘姫の米吉、お三輪の菊之助の二人が大活躍だった。米吉は好きな女方である。お姫様役をやらせると本当にかわいらしい姫という感じがして良い。若手女方の中では一番好きだ。また、菊之助は菊五郎の休場でさぞかし心労もたまっているだろうが、良い演技をしていた。菊之助は立役より女方の方が合っているのではないかとさえ感じた。
求女、実は藤原鎌足の息子淡海を演じた梅枝だが、なよなよしたダメ息子という感じがしたが、これがこの役の人物像なのかもしれない。身分の高い鎌足の息子だから上品な、繊細な男性という設定なのかもしれない。美女二人から惚れられるような男には見えなかったが、当時はこういう男がもてたのだろう。
さて、今日の開演は12時であったので、開演前に国立劇場の2階のレストラン「十八番(おはこ)」で昼食をとった。今まで一回も利用したことがなかったので、一度試して見ようと思い、入ってみた。メニューは2千円、3千円するお弁当の他は蕎麦とラーメン、カレーしかなかったので、かき揚げ蕎麦950円を注文した。まわりを見渡すと、おばさま方はほとんど高価なお弁当を食べているので驚いた。
良い思い出になった。