上野の東京芸術大学「奏楽堂」で開催された藝大オペラ定期公演「コシ・ファン・トゥッテ」を観に行った。東京文化会館の公演予定表で見つけ、以前一回見学した奏楽堂(こちら参照)で開催するというので興味を持ったし、若い学生達の公演などで応援したいと思った。
奏楽堂を見学したとき、歴史的建造物ととして保存しているだけだと思っていたら、今でも公演で使用していると知り驚いた。今回、まさに実際に公演で使用している場に行けるというのは意義のあることだと思った。
ところが当日奏楽堂に行ってみると案内板が立っており、本日の藝大定期公演はこの場所ではなく、藝大音楽部の中のホールです、と地図とともに案内が出ていたのでびっくりした。おかしいなと思って地図を頼りに公演会場の藝大音楽部を探したがなからか見つからず周囲を10分くらい歩き回り、漸く藝大美術館前の大学入口から中に入ると、そこに立派な同じ名前のホールが見つかった。
あとでチケットをよく見ると、藝大奏楽堂(大学構内)と書いてある。この大学構内という意味が、こういう意味だったのかと理解したが、当日は焦った。
この会場に入ってみると、なかなか立派なホールであった。結構大きなホールで、8割くらいは埋まっていた。藝大生のコンサートということで来ている人は関係者が多いのだろう。大学内なので飲み物は自販機のみでお酒などもない。座席は広く、膝の前のスペースも少し余裕があった。ただ、写真撮影は一切禁止であったのは残念だ。今日はS席、6,000円。正面前から10番目くらいの席だった。
大学のHPによれば、この定期公演は、「大学院オペラ専攻の学生が主要キャストを、合唱を学部声楽科3年生が務めます。第一線で活躍する指導陣によりオペラ専攻で総力をあげて本番に臨んでおります。本公演の大道具・衣裳・照明等は専門業者に協力をいただき、学生の公演としては高水準のものを維持しております。その背景には、藝大フレンズをはじめとする助成ならびにご協賛・ご寄付による支えがあり、そうした多くの方々のご厚意なくしては実現できないものとなっております。」と説明されている。
指揮者や演出家はプロだし、藝大フィルもプロ・オーケストラ、その他いろんな費用がかかるので、歌手は学生でも料金は取るのだろう。本来は寄付を求めるべきだろうが、それだと6,000円も金を払わない客が多いというのが日本の悲しい現実なのだろう。
「コシ・ファン・トゥッテ」はモーツアルト作曲、初演は1790年1月26日、ウィーンのブルク劇場、原作はダ・ポンテの書き下ろし「コジ・ファン・トゥッテ、または恋人たちの学校」で、これを元に同じダ・ポンテが台本を作った。
ブルグ劇場は一度訪問したことがある、場所はウィーン国立歌劇場の直ぐそば。現在は演劇公演が行われる場所となっており、演目はすべてドイツ語ばかりだったので観るのを諦め、英語の見学ツアーに参加したのは良い思い出だ。
指揮:佐藤 宏充、演出:今井 伸昭
【キャスト】
フィオルディリージ 梅澤 奈穂
ドラベッラ 倉林 かのん
フェッランド 新海 康仁
グリエルモ 植田 雅朗
デスピーナ 八木 麻友子
ドン・アルフォンソ 田中 夕也
合 唱:東京藝術大学音楽学部声楽科3年生
管弦楽:藝大フィルハーモニア管弦楽団
今日の公演では、出演者は皆頑張って良い演技をしていたと感じた。声量も豊かだし、歌い方もうまかった。歌手で一番印象に残ったのはデスピーナ役の八木麻友子だった。もちろん、藝大フィルの演奏も良かった。
歌手以外で今日の公演で印象に残ったのは舞台演出や照明であった。舞台の幕が下りたり上がったりするのではなく、パーティションのような2メートル四方位のパネルが2つ、舞台を塞いだり開いたりして幕の代わりをしていたのが面白かったし、第2幕での照明のキレイな効果が舞台に色取りを添えて良かった。
この物語は、二組の婚約中のカップルがいて、その共通の友人である老哲学者がカップルの武家貴族の男性二人に「この世に女の貞操は存在しない」と言い、そうではないことを証明するために男性が変装してお互いの婚約者に求婚したら、なんと女性達は最後に元の婚約者を忘れて結婚を承諾してしまった、と言うおふざけの物語だ。
ここで面白いのは、通常は浮気をするのは殿様など男性陣と決まっているが、このオペラでは女性の方が浮気してそれがバレて男性がそれを許す、というものだ。フィガロの結婚でも召使いのスザンナに手を出すのは伯爵で、それを最後に許すのは伯爵夫人だ。こんなストーリーは当時のご婦人達から非難の声は上がらなかったのだろうか。また、このオペラを観に来た今日の女性陣達もどう思ってみたのだろうか聞いたみたいところだ。
学生達は引き続き頑張って、成長していってほしい。