テレビ番組で平成中村座が姫路城の三の丸広場で行った歌舞伎公演を観た。今夜の演目は舞踏の「棒しばり」と姫路城の天守を舞台にした泉鏡花の作品「天守物語」だ。
棒しばり
次郎冠者 勘九郎(41)
次郎冠者 橋之助(29、芝翫長男)
曽根松兵衛 扇雀
次郎冠者と太郎冠者は無類の酒好き。ある日、主人の曽根松兵衛は、外出中に酒を盗み飲まれないよう一計を案じ、次郎冠者の両手を棒に、太郎冠者を後ろ手に縛りつけて外出します。飲めぬとわかるとますます酒が飲みたい二人は、協力して酒を酌み交わし始めます。そうして二人がほろ酔い気分で踊り出したところへ、松兵衛が帰ってきて・・・
この演目は六代目菊五郎と七代目坂東三津五郎のコンビで初演されたものだそうだ。勘九郎の演技はなかなかさまになっていた。表情にも余裕が感じられ、亡き勘三郎にそっくりになってきた。勘三郎が常に熱演するのを見て育ったのだろう、勘九郎も常に全力で演技しているのが伝わってくる。両手を棒に縛られたままで、左手に持った開いた扇子を右手に投げて持ち替えるところはよく失敗せずにできるもんだ。
楽しく鑑賞できた。
天守物語(演出:坂東玉三郎)
天守夫人富姫 七之助(初役)
姫川図書之助 虎之介(25、成駒屋)
朱の盤坊 橋之助
亀姫 鶴松
小田原修理 片岡亀蔵
舌長姥/近江之丞桃六 勘九郎
薄 扇雀
泉鏡花の同名の小説を歌舞伎にしたものだが、あまりに斬新で奇想天外であったため鏡花の存命中は上演がかなわず、初演は昭和26年のことだった。今回、物語の舞台と実際の平成中村座の舞台が同じ姫路城というのはよく考えたものだ。最高の舞台設定といえよう。
播磨国姫路にある白鷺城の天守閣は、人間たちが近づくことのない別世界。この世界の主、富姫。富姫を姉と慕う亀姫が訪れ、久しぶりの再会を喜び亀姫に土産として白鷺城の城主である武田播磨守自慢の白い鷹を与える。その夜、天守閣に播磨守に仕える姫川図書之助が鷹を探しに現れ、富姫は凛とした図書之助の応対に、命を奪うべきところを無事に帰すが、図書之助は天守を降りる途中で燈を消してしまい、火を求めて最上階へと戻る。図書之助に恋心を抱き始めていた富姫は、自分に会った証として、城主秘蔵の兜を渡す。再び天守を降りた図書之助は家宝の兜を盗んだ疑いをかけられ・・・
泉鏡花の小説はいくつか読んだが、大変面白い。幻想的な小説が多く、本作品もそうだ。この作品は長年、坂東玉三郎が富姫を演じてきたが、今回は初めて後進の七之助が演じ玉三郎はいろいろ指導したという。また、演出もやっている。良いことではないか。七之助も玉三郎から見込まれたのだからたいしたものだ。私はまだ玉三郎の富姫は観ていないので比較できないが、七之助は立派に富姫をこなしていたと思う。