(2025/5/25追記)
当ブログで女性の痩身願望のことを書いたが、今日の読売新聞に「女性の低体重 健康を損なう極端なやせ願望」という社説が出た(こちら)、それによれば若い女性のやせすぎは月経周期の異常、貧血のみならず糖尿病になりやすく、生まれてくる赤ちゃんも低体重や糖尿病になりやすいなどの大きなリスクがあるという
社説ではSNSの体験ダイエット動画などの影響が指摘されているが、テレビの影響が一番大きいのではないか、ニュースの女性アナウンサーやお天気姉さんに太めの女性は一人もいない、私の良く見るアメリカのPBSNewsには太めの女性キャスターもちゃんと出ている、そこから直していくのが一番手っ取り早いと思うけど・・・
(2025/5/9当初投稿)
どういう理由だったか覚えていないが、柚月麻子「BUTTER」(新潮文庫)を買って読んでみた、彼女の本を読むのは初めて
柚月麻子は1981年生まれ、大学時代より脚本家を目指してシナリオセンターに通い、ドラマのプロットライターを務め、卒業後、製菓メーカーへの就職を経て塾講師や契約社員などの職のかたわら小説の賞に応募し、2008年に第88回オール讀物新人賞を受賞して頭角を現し、その後、数々の受賞歴を誇る人気作家
本書は2017年4月 新潮社から出版されたもので2017年の直木候補作にもなり、英訳されて海外でも出版、2024年11月に英大手書店チェーンのウォーターストーンズが2024年の「今年の一冊」に「BUTTER」英訳本を選んだと発表した
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中高年の男たちに次々に金を貢がせ、3件の殺害容疑で逮捕された女、梶井真奈子(カジマナ)が主人公、彼女が世間を賑わせたのは、彼女の決して若くも美しくもない容姿だったからだ、週刊誌で働く30代の女性記者・町田里佳はカジマナへの取材を重ねるうち、欲望に忠実な彼女の言動に振り回されるようになっていき・・・
物語は殺人犯のカジマナ、記者の里佳、里佳の親友伶子が中心となって展開していく、そして食に関する考えが一つの大きなポイントとなる、カジマナは日本の女性たちの痩身願望をあざ笑い、女性はもっとバターを使った美味しい料理を好きなだけ食べるべきで、太ることを気にしたらダメだ、そして男たちはそういう美味しい料理を作ってもてなしてくれる女を望んでいるんだと言う
この小説は、首都圏連続不審死事件(木嶋佳苗事件)をモチーフにした作品、作中の人物はフィクションであり、事件の再現ではないとされている、木嶋事件をちょっと調べると確かにこの小説のモデルと似ているし、木嶋の周りに登場する人物も小説の登場人物と似通ったところがあるが、巻末の解説を書いた山本一力によれば、途中から現実の事件とはかけ離れた展開になるという
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読後感
- なかなか面白かった、物語の展開が一本調子ではなく、意外な場面転換が適当なタイミングで入り、その複数のプロットが最後で連結して結末を迎えるという面白い小説の作法をしっかりと展開していたと思った
- 小説の中での意外性という点では、伶子が疾走した理由と失踪中にやっていたこと、伶子や里佳がカジマナから受けた衝撃的な言葉の2点がある、山本一力が言うように途中から実際の事件や登場人物から離れて、これだけ豊かな内容を作り出す著者の力量はたいしたものだと思った
- 特に伶子や里佳がカジマナから受けたショックの大きさはよくわかる、そしてそのショックの大きさをよく描ききれていると思った、今まで自分がやってきたことを全否定されるようなことは長い人生では起こることもあるでしょう、最近のネット証券口座乗っ取り詐欺で大きな被害を受けたシニアは里佳と同じように茫然自失となるのではないか
- 本書を読んで里佳の仕事に対する取り組み姿勢など共感できる部分も多かったが、私生活についてはついていけなかった、かなり深い仲になった男性の誠との関係を最終的には断ち、仲間に囲まれながら一人で生きていく決意をしたのが最後の場面だ、仲間や母親が気軽に来れるような中古マンションを購入し、女性が生涯一人で自立して生きていくライフ・スタイルをとる決意をする・・・「こういったライフ・スタイルもある」ということが小説、テレビドラマなどを通じて世の中に広まっていくことに懸念を感じた
- 多様な生き方があるのは当然であり、それぞれ尊重されるべきでしょうが、若い夫婦でも自分の子供には良い人を見つけて結婚し、子供を作って楽しい家庭を築いてほしいと願っている人が大部分ではないか、結婚しない人や子供がいない夫婦を差別や一人前扱いしないことは反対するが、生涯独身が多様な生き方の一つとしてたびたび世上に登場することが如何なものかと思う、何か進歩的な女性の一つの生き方みたいに言っているようにも感じ、そういう生き方に誘導さえしているのではないかと感じ、感化される若者もいるのではないか
- もともと日本人は何事につけ奥手で、恥ずかしがり屋で、特に男女関係については断られたら恥ずかしいと思い、異性をデートに誘うことや気持ちの告白をためらい、ずるずる年を重ねて婚期をのがしてしまう若者が多いのではないか、そういう若者たちが小説やテレビドラマで里佳のような生き方を見て「ああ、一人でもいいんだ」と無理やり自己を納得させてしまうのが心配だ、本書も最後は誠とよりを戻して新たな歩みを開始するとしてほしかった
- 一方、カジマナが言っていることに同意できる部分もあった、それは若い女性の痩身願望に対する批判である、最近医師が若い女性がやせすぎで危険である旨警告したとのニュースを聞いたが、その通りであろう、若い女性の痩身願望をあおっているのがテレビだ、テレビの女性アナウンサーなどはみな一律にモデルのようなウエストラインだ、昔は痩身は貧困を意味していた、男性がそういうスタイルを望んでいると勘違いしているのではないか、若い女性のスタイルについてもテレビは積極的に得意の多様性を発揮してもらいたい
- 本書のタイトルになったバターは物語の一つの象徴だが、作中でバターに関する記述で共感できるところもあった、例えば、カジマナはエシレのバターとカルピス・バターを里佳に勧めるが、私もカルピス・バターの愛好者である、このバターは上品な薄味で色もどぎつくない、有名なレストランでも使用していると聞いたことがある、そしてスーパーでは売っていないことが多くデパートの食品売り場でないと買えないし値段も高めだ
- そして、熱いご飯の上にカルピス・バターを一切れ乗せ、醬油を2、3滴立たらし、バターが溶けない間に食べると非常においしいことが書かれている、私はバターご飯は好きではないが、トーストの上にスライスしたカルピス・バターを乗せて、カジマナが言うようにバターが溶けない間にトーストを食べるのが大好きだ、バターの味がよくわかるからだ
面白い小説だと思った