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「なぜNHKは反知性主義に乗っ取られたのか」を読む(その1)

2023年10月02日 | 読書

早稲田大学法学部教授(出版時点)の上村達夫(うえむら たつお)氏による「なぜNHKは反知性主義に乗っ取られたのか」(東洋新報社、2015年出版)を読んだ。

NHKについては、いろいろ問題意識を持っていたし、上村氏のコーポレート・ガバナンスや証券取引規制、会社法に関する所論には啓発されることも多いので、教授がこんな本を出していると知り、読みたくなった。また、最近よく反知性主義と言う言葉を聞き、使われ方に違和感を覚えていたので、その点からも読みたくなった。

上村氏は2012年3月から2015年2月までNHKの経営委員を務めた。この本で問題とされている籾井勝人氏は2014年1月から2017年1月まで会長を務めた。

上村教授が経営委員をされていた期間、私は仕事が忙しすぎて籾井会長がらみの報道に余り興味を持って見てはいなかった。今回、本書を読んで、当時なぜメディアであんなに騒いでいたのか、その内容を知ることができた。

先ずは、本書で教えられた点、教授の主張に同意できる点などを記載してみたい。

  • 籾井氏は会長就任会見で、「政府が右といっているものを我々が左というわけにはいかない」と発言されていることを批判しているが、もっともである。
  • NHKの予算は国家予算ではないが国会で審議、承認される。これはNHKの公共性に鑑み、国会が公共を代表してNHKの経営姿勢を正すためである。日常のガバナンスは国会が任命した経営委員が果たす。基本的なことだが、よく理解できる説明だ。
  • 教授は、安倍政権の成長至上主義、株価至上主義について、日本は他国の例を十分に知っているはずなのに、他国が必ず通ってきた誤りを繰り返そうとしている、と批判している。この後段部分は私も同感だ。最近では、移民問題、LGBT法などには大きな懸念を感じている。
  • 日本の金融・証券市場をアメリカ並みに自由化する一方、監督・監視する権限はアメリカほど強くない点を危険であると指摘しているが、その通りだと思う。
  • 株主至上主義のようなグローバル至上主義に対抗するのは各国のデモクラシーの論理である、と言う点についてもその通りである。
  • Timesの世界大学ランキングは英語圏絶対優位のランキングになっており、ノーベル賞受賞者を多く出している日本が聞いたこともないような大学の後塵を拝している、このような理不尽な大学ランキングに何ら批判的な精神を持たず、唯々諾々として、そこで10位以内に入ることを目標とする姿勢こそ反知性主義である。ランキングに乗せること自体を辞退すべきだ。その通りだと思う。報道の自由度ランキングなども同じだろう。メディアはただこんなニュースを垂れ流すだけしかできない。
  • NHKの不偏不党とは、多様な意見を素直に提示し、素直な意見交換の場を常に設定し、大胆な反対意見にも耳を傾けす姿勢であると述べている。誠にその通りであると思う。 
  • 1992年の国連環境開発会議での自然と人間との共生を謳ったリオ宣言により、西欧的な人間観、自然観それ自体が反省を迫られた。日本が世界に発信できる多いに豊かなる財産を持っていることを踏まえ、NHKには世界の中の日本、非西洋国家の限界を克服して、最も民主的で自由な精神に満ちた成熟市民社会を実現させていく上での使命を果たしてもらいたい、と述べている。この点も、同意する。
  • 早稲田や慶応の建学の精神にある独立、独立自尊というのは気高い精神で、常に強者に対する独立と少数意見の尊重を意味している。その理由は歴史的に見ても少数意見がの方が正しかったという経験則に基づいている、と書かれている。歴史的に見て少数意見の方が正しかったというのは当たっている例が多いだろう(ただ、そうならば本書で指摘している安倍政権の集団的自衛権の解釈変更について大多数の憲法学者が反対していることを批判の根拠の1つとしてるのはどうかと思う)。

(その2)に続く



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