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歌劇「トスカ」をテレビで観た

2024年06月21日 | オペラ・バレエ

テレビで放送していたミラノ・スカラ座2019/20シーズン開幕公演、歌劇「トスカ」を観た、2019年12月の公演で、コロナの蔓延直前の公演だ。

作曲:プッチーニ (1900年、ミラノ初稿版)
演出:ダヴィデ・リーヴェルモル

<出演>

トスカ:アンナ・ネトレプコ
カヴァラドッシ:フランチェスコ・メーリ
スカルピア男爵:ルカ・サルシ
アンジェロッティ:カルロ・チーニ
スポレッタ:カルロ・ボージ
シャローネ:ジュリオ・マストロトターロほか

合唱:ミラノ・スカラ座アカデミー児童合唱団、ミラノ・スカラ座合唱団
管弦楽:ミラノ・スカラ座管弦楽団
指揮:リッカルド・シャイー 
収録:2019年12月7日 ミラノ・スカラ座(イタリア)

公演開始前にはイタリア大統領ご一行が場内に紹介され、スカラ座管弦楽団によるイタリア国歌が演奏された、良いことではないか、日本でも新国立劇場の新シーズン開幕公演では天皇陛下のご来臨を賜り君が代の演奏をやってもらいたいものだ、競馬の天皇賞やサッカーの国際試合でも国歌斉唱はやっているではないか

もっともスカラ座が毎年そうやっているのかは知らないし、演目がトスカだからこそ大統領一行が訪れ、イタリア万歳の国歌を演奏したのかもしれない

この「トスカだから」というところだが、

  • トスカの舞台は17世紀末のローマである、私の愛読する塚本哲也氏の「わが青春のハプスブルク」(文春文庫)によれば、近世に入ってからのイタリアは、フランスのブルボン家とオーストリアのハプスブルク家の争奪戦の場となり、18世紀以降はハプスブルク家が圧倒的に優勢で、支配権を固めていた
  • フランス革命のあと、ナポレオンが全イタリアを席捲し、18年間もその支配下におかれていたものの、没落後、再びそのほとんどをハプスブルク帝国の配下におかれ、オーストリアの勢力と影響力が広く覆うことになる
  • トスカはこの時代を舞台にしたオペラであり、オーストリアと大いに関係がある、すなわち、フランス革命直後、ナポレオンがイタリアを制圧して帰国後、1799年からオーストリア・ロシア連合軍の反攻が始まり、北イタリア、中部イタリアのほとんどがオーストリアによって奪還された、こういう状況の中での歌姫トスカの6月17日から18日の二日間にわたる物語である
  • ハプスブルク支配下のナポリ警視総監スカルピアはローマにおいてフランス革命を賛美する者たちを弾圧していた、6月17日はマレンゴの戦いの初戦でオーストリア軍がナポレオン軍を圧倒し勝利が確実になったとの伝令が入った日だ、トスカはスカラ座の名ソプラノ歌手で17日夜、オーストリア軍の祝勝オペラを歌う予定だったが、スカルピアは共和主義者をかくまっているトスカの恋人で画家のカラヴァドッシを逮捕、拷問にかけると、心配のあまりトスカは共和主義者の秘密を口走ってしまい、血だらけのカラヴァドッシが出てくると今度は、マレンゴの戦いで最後の瞬間にナポレオン軍が歴史的な勝利を収めたとのニュースが入る、スカルピアは・・・・
  • スカルピア総監はナポリ王国、その背後にあるオーストリア帝国の象徴であり、トスカとカラヴァドッシはイタリア独立派の代表である、トスカは要するに、恋愛悲劇に名を借りた反オーストリアのオペラという性格を持っていたといえないこともない
  • 原作はヴィクトリア・サルドーというフランス劇作家、1877年に当時の名女優サラ・ベルナールのために書いたものである、既にイタリア統一後だが、そのために犠牲になった人たちへの記念碑なのである、それにプッチーニが感激してオペラとして作曲した、フランス人も当時オーストリアに事あるごとに覇を争い、イタリアを応援していたから、イタリアの反オーストリア感情はまたフランスの劇作家の心境でもあったのだろう

ちょっと歴史的経緯の説明が長くなったが、ここでこのオペラを観た感想を書いてみたい

  • タイトルロールのトスカを歌ったのはご存知、アンナ・ネトレプコだ、歌唱力は抜群であった
  • 彼女が出てくる場面のうち、第2幕で、トスカがスカルピアを刺し殺した後、ぼう然としているところの奥に、彼女が着ていた青と赤のドレスと同じ衣装の女性がポーズをとって現れるところがある(上の写真)、これが何を暗示しているのか、この時点ではわからなかった
  • 第3幕の最後にトスカがカラヴァドッシの死亡に愕然とし、投身自殺するところ、この公演では天に召されるように天上に昇華して消えていくという演出であった。この時のトスカの姿だが、上に述べた第2幕でトスカの背後に亡霊のように出てきた同じ衣装を着た女性は、天子か女神であり、最後の悲劇でトスカがそうなる運命であることを暗示したのかなと思った
  • また、この最後のトスカが天に召されて消えていくところは歌舞伎の宙吊りと似ている演出だと思った
  • スカルピアを演じたルカ・サルシ(1975、伊)であるが、実にうまかった、役柄にピッタリの歌手だと思った、歌唱力も抜群であり、いやらしさの出し方などは素晴らしかった、この人は悪役に向いていると思った、特に第1幕フィナーレは舞台演出の壮麗さと彼の歌の迫力がぴったりと一致して素晴らしい歌唱力だと思った

さて、ミラノのスカラ座であるが、

  • 塚本氏の本によれば、スカラ座はハプスブルク家と深い関係がある、すなわち、スカラ座はハプスブルク帝国にあるウィーン国立歌劇場と中が瓜二つであるそうだ、スカラ座の内装もハプスブルク王朝の象徴である白・赤・金の三色が使われている、ウィーン宮廷はイタリア人の建築や絵画、彫刻の才能と香り高い文化には深い敬意と親しみを持っていた、スカラ座の基本設計はイタリア人であり、その影響がウィーンのオペラ劇場にも及んだわけであり、イタリアとハプスブルクの文化交流の象徴ともいえるそうだ、なるほど両国の関係を知ればわかるような気がする
  • 私は一度、スカラ座を訪問したことがある、その時は劇場見学ツアーにも参加したが、バレエも観劇した、演目は「マノン」、フランスのアベ・プレヴォーの小説『マノン・レスコー』を基にしたバレエ、この時の主役マノンはロシアのスヴェトラーナ・ザハーロワ、相手の恋人役を地元イタリアの伊達男として人気ナンバーワンのロベルト・ボッレというこれ以上望めない組み合わせだった、素晴らしい劇場と演技を見せてもらった


(見学ツアーの時に撮影した劇場内)


(自席から撮った写真、平土間の後ろのほうの席だった)


(開演前、オーケストラピットの前で振り返って取った写真)

いろいろ興味の尽きないオペラである



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