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気ままに生活してるシニアの残日録

演劇「桜の園」を観る

2023年12月04日 | 演劇

テレビで放送していた演劇、アントン・チェーホフ原作、「桜の園」を観た。原作は読んだことがあったが、演劇で観るのは初めて。2023年8月にPARCO劇場で上演されたもの。太宰治の「斜陽」はこの原作に影響された作品と言われている。

英語版:サイモン・スティーヴンス
翻訳:広田敦郎
演出:ショーン・ホームズ
出演:
原田美枝子(ラネーフスカヤ、女主人)
八嶋智人(ロパービン、実業家)
成河(トロフィーモフ、学生)
安藤玉恵(ワーリャ、養女)
川島海荷(アーニャ、娘)
前原滉(エピホードフ、管理人)
川上友里(シャルロッタ、家庭教師)
竪山隼太(ヤーシャ、若い召使い)
天野はな(ドゥニャーシャ、メイド)
市川しんぺー(ピシーチク、地主)
松尾貴史(ガーエフ、兄)
村井國夫(フィールズ、老僕)
 
桜の園は、20世紀のの初頭、時代の変わり目に、農奴解放令によって没落していく貴族の領地「桜の園」が舞台。兄のガーエフに領地経営をまかせて自分は5年間フランス暮らしをしてたラネーフスカヤ夫人が戻ってきた。返済しきれない額に達した借金ができていたが、昔の生活が忘れられずに散在を続ける夫人に元農奴の息子で実業家として成功しているロパービンが、桜の木を切り倒し、別荘賃貸経営に転じるよう提案するが、桜の園を誇りとする夫人たちに無視される。結局、領地は競売にかけられ、夫人は桜の園を失う、そして落札したのはロパービンだった。
農奴解放という大きな時代の変革時に、そのの変化に適応して自分を変えられる人とそれができない人がいた。桜の園では、変化に対応できない人としてラネーフスカヤ夫人と兄のガーエフ、そして老僕のフィールズが、新しい時代に生きる人々としてロパーヒン、アーニャ、トロフィーモフ、ヤーシャ、ドゥニャーシャらが描かれている。
 
このような「桜の園」が問いかけている問題は、いつの時代でも当てはまるものだろう。時代の大きな変化についていけずに従来のやり方をかたくなに変えようとしない人と、時代の変化を感じ、いち早く自分を変えられる人の違い。ただ、現実問題として、今現在に当てはめれば、何が時代の大きな変化なのか、それを見極めるのは結構難しいと言えるかもしれない。
貴族の没落ならまだ良いが、国家の没落につながりかねない時代の変化への対応の遅れがあるのではないか、というのが一番心配なところだ。日本の安全保障環境の悪化は間違いなく時代の大きな変化だろう。
演出家のショーン・ホームズはTVのインタビューで「桜の園はさまざまな利害が対立する戦場であるということです、劇中に個人的、政治的、哲学的なたくさんの戦いがあり、時には穏やかに見えたり、ちょっと風変わりに見えたりはするが、その対立の意味するところは非常に重要で、それで人生の苦しみを表現している」と述べている。これは「桜の園」の一つの見方であろう。
 
舞台の美術、照明などでは、全4幕のすべてにおいて照明は暗く、没落貴族の運命を示しているような感じがした。
この演劇の出演者では、ロパービン役の八嶋智人(53)の演技が光っていたと思う。NHKの「チョイス@病気になった時」をたまに見ていて知った俳優であるが、演劇にも結構出演していたのは知らなかった。桜の園の競売の落札人がロパービンであったことが明らかになってから、彼の演技が俄然、物語の中心になってきて、彼の演技がみごとだった。
ラネーフスカヤ夫人役の原田美枝子(64)は最近の朝ドラの「ちむどんどん」に、管理人エピホードフ役の前原滉(31)と、ワーリャ役の安藤玉恵(47)はともに最近の「らんまん」に出演していたので、その限りで最近の演技は見ていたが、この演劇でも持ち味を活かした役作りをしていた。
演劇の場合、終演後のカーテンコール時に、通常、出演者はなぜか笑顔を見せずに真面目くさった顔をして挨拶する場合が多いが、今日の公演では原田美枝子はニコニコ笑顔で観客に挨拶していたのが印象的だった。これで良いと思う。
 
1回の鑑賞ではすべて理解することはできないので、折に触れて原作を読み直し、演劇も見直したい。