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気ままに生活してるシニアの残日録

映画「PERFECT DAYS」を観る

2023年12月27日 | 映画

日比谷シャンテで映画「PERFECT DAYS」を観た。2023年、日本、監督ビム・ベンダース。1,300円、シニア料金、座席は満席だったのには驚いた。シニアが圧倒的に多かった。

この映画は、2023年・第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、主演の役所広司が日本人俳優としては柳楽優弥以来19年ぶり2人目となる男優賞を受賞した。東京・渋谷区内17カ所の公共トイレを、世界的な建築家やクリエイターが改修する「THE TOKYO TOILET プロジェクト」に賛同したベンダースが、東京、渋谷の街、そして同プロジェクトで改修された公共トイレを舞台に描いた。このトイレプロジェクトは偶然だがテレビの「新美の巨人たち」で取り上げていたので知った。

映画は主人公の平山の日常生活の模様を淡々と描いていく。東京スカイツリーの見える下町のアパートに一人で住む中年の平山、彼の過去は何も示されない、毎朝近所のお寺の坊さんのゴミ掃除の箒を掃く音で目覚め、歯を磨き、洗面し、仕事着に着替え、アパートの前にある自販機で缶コーヒーを買う。仕事道具を積んだ軽ワゴン車に乗り込むと缶コーヒーを飲み、カセットテープで古い音楽を聴きながらトイレ掃除の現場に向かう。相棒の若者(柄本時生)と分担して丁寧に仕事をこなすと、夕方には銭湯の一番風呂に入る。そのあと、行きつけの浅草駅地下の飲み屋で一杯やり、家に帰ると、文庫本を読んで眠くなると寝る。この繰り返しだ。テレビもないし新聞もない、パソコンもない。携帯だけは持っていたが。

変化と言えば、①あるとき姪が家出して訪ねてくる②仕事の相棒が彼女を遊びに連れて行くバイクが壊れたので軽自動車に同乗させてやる③行きつけのスナックのママのところに別れた亭主(三浦友和)が訪ねてきた場面に遭遇する④毎日公園で撮っている木漏れ日の写真を現像しに行き、新しいフィルムを買う⑤本を読み終わると新しい本を古本屋に買いに行く、などだけ。

ストーリーに劇的な展開があるわけでもなく、どんでん返しがあるわけでもない。監督はこの主人公の平和な、規則的な、何にも縛られない自由な生活を称えているのだろうか。平凡な生活こそ人間の最大の幸せである、ということを言いたいのだろうか。そのこと自体、反対する理由は全くないどころか同意見である。

現在の先進国における暖衣飽食に対する痛切な皮肉か、あるいはウクライナや中東のような人間同士で殺し合うバカさかげんに対する批判か。人間みんなこんな風に生きていけば幸せなのに、どうしてそれができないのか。映画の中で姪の娘が「お母さんは自分たちが住んでいる世界とおじさんの住んでいる世界は違うのと言っているのよ」と平山に話す場面がある。住んでいる世界が異なれば考え方も異なり、違う考えの人とは衝突も起こる。衝突を起こさないためには、違う世界の人とは接触しないし、接触しても自己の主張を押し付けたりしなければ良いわけだが、なかなかそうもいかないというのが現実だ。

そんなことを考えながらこの映画を観たが、何かすっきりした後味はなかった。それは映画としてはもう少し何かがあった方が良いのではと感じたからだ。しかし、感じ方は人それぞれで良いのだろう。

平凡な毎日を退屈と感じる人も多いだろう、特に若者は。それは仕方ない、この映画の良さがわかるのは中高年になってからで良い。平凡な生活の良さが身にしみてわかるのは、それを失ってからだ、不治の病におかされたときとか、家族を亡くしたときとか、いくらでもそんなことはあるだろうが普段それに気付かないことが多い。そんな点が少しストーリーに絡めば、更に観る人に考えさせるのではないかと思った。

私も平山のような質素な、質実剛健な生活にはあこがれる。平山のライフスタイルで良いと思ったのは読書の習慣だ。最初の方で彼が読んでいる本が画面に映る場面があったが、タイトルがよくわからなかった。途中、古本屋で買った本は幸田文の「木」と、もう1冊はパトリシア・ハイスミス(米、1995年74才没)の「11の物語」だ。古書店主の女性が「パトリシア・ハイスミスは不安を描く天才だと思うわ。恐怖と不安が別のものだって彼女から教わったの」と平山に語るシーンが印象的だが、彼女の本は読んだことがないので、その意味がわからなかったが。

自分がどんな経済的境遇になっても読書の習慣さえあれば心が豊かな生活が送れると思っている。文庫本1冊、古本屋なら500円以下で買えるだろう、それを毎日少しずつだが読む習慣があれば豊かな人生が手に入ると思う。もう少し余裕があればテレビでは多すぎるくらいのクラシック音楽番組もあるしテレビ映画も多くある。金がなくても心が豊かな生活は可能だ。質素で規則正しい生活の中にそういった金のかからない楽しみがあれば人生がどれだけ充実することだろうか。

良い映画でした。

ところで一昨日、24日のクリスマスイブは例年通り、シニア夫婦二人で鶏肉。このくらいの贅沢はあっても良いでしょう。