Sleepless Sheep

眠れぬ夜を闊歩する・・とりとめ無き戯れの記憶・・・

1杯のナポリタン 第8幕

2005年01月23日 07時33分27秒 | スナドリネコの観察の森
全く会話がないのにもかかわらず 冷え切った空気が漂うわけでもなく ただそれぞれが独自の空間を形成しており 敢えてお互いに干渉しない 暗黙のルールがあるようにも見える
ごく自然な動きの流れの中で 彼は爪楊枝をくわえると おもむろに背中のあたりから雑誌を取り出して読み出した   (・・・紙のプロレス? ) 何か餃子のような耳をした男が ちらっと見えた表紙を飾っていたようだが 定かではない
子供の方も スパゲティーをチュルチュルと1本ずつ啜り上げる以外は 席を立つこともなければ 奇声を発するわけでもなく 実に行儀よく食べ続けている  手のかからぬ子供というものがどういうものなのか 振り返れば人事でもない私には 少々悲しくもあるのだが・・
さて 黒塗りのヘルメットをかぶせたような 全く同じ髪型なので気が付かなかったが 上の子は男の子で 下の子は女の子のようだ  何故なら一人は全身青で 一人は全身赤ずくめなのだ 何と親切な性別表示であろうか
口の周りを真っ赤に染めて 無邪気にスパゲティを啜る彼らの瞳には 母の温もりを知らない子の孤独を感じさせるものは 一切存在しなかった  勝手に男やもめに仕立て上げられた悲劇の一家は 陳腐な私の想像から出ることはなく たまたま母のいない日曜日の夕暮れの一幕に過ぎなかったのかもしれない 現に抱き上げた女の子の足は裸足であり 暖かい車から暖かい部屋へと帰っていくことが 容易に想像できる  そうなるとただのど厚かましい客となってしまいそうだが もうそんなことはどうでもいいのだ  父親の腕にしがみついた紅葉のような手に あかぎれなどないにこしたことはない・・・