北朝鮮問題と日米の対応
永井津記夫
6月12日の北朝鮮と米国の首脳会談を前にして北朝鮮はいろいろと条件を出そうとしている。5月24日に北朝鮮の態度に不信感を示したトランプ大統領の首脳会談中止の発表を受けて北朝鮮はあわてて態度を修正し、会談は開催の方向に進もうとしているようである。しかし、予断は許さない状況である。
日本のマスコミは、在日コリアンの北朝鮮関係の研究者や韓国に在住の北朝鮮からの亡命者(元高官)の見解を聞き、北は絶対に“核放棄”などをしないとの考えを彼らに述べさせている場合が多いようである。
今、日本にいちばん必要なことは、北朝鮮の完全な非核化と中短距離ミサイルを含めてのミサイルの完全放棄である。これが、日本国民全員にとって一番大切なことである。次に、日本人拉致被害者の解放と帰国である。
そして、日本のマスコミがすべきことは、口をそろえて北朝鮮が完全な非核化を達成しなければ、米国の北朝鮮攻撃があり得る、いや、不可避だと言うことである。なぜなら、米国は北朝鮮が期待していたほど甘い国ではないし、非常に危険な国であるからだ。北朝鮮が非常に危険なのだ。つまり、北朝鮮国民が非常に危険なのだ。
日本のマスコミは太平洋戦争において、日本国民(一般市民)がどのような目にあったのかを、米国がどのような非道を行なったのかを、北朝鮮の現在の蛮行(政府側近の処刑、一般市民の強制収容所での処刑)と同様にまるで何もなかったかのように無視し、報道せず、むしろ、相手の言い分のみを報道するかのような姿勢を見せている。これでは、逆の意味で、太平洋戦争時に日本のマスコミが軍部を煽り立てて戦争に突き進ませたのと同じことをしているとしか私には思えない。
私は昨年の9月4日に以下のブログを書いた。
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北朝鮮の軍事的脅威にどう対処するか
朝鮮人と日本人は米国の恐ろしさがわかっていないようである。日本人は忘れてしまったという方が正確かもしれない。私は、父が太平洋戦争でインパール作戦に参加し終戦後、イギリス軍の捕虜となったが、無事、日本に帰国したあと生まれたので空襲や爆撃の恐ろしさは体験として存在しない。
太平洋戦争において米国は日本人がどれほど死んでもかまわないという覚悟で主要大都市を空襲し、焼夷弾をまき散らし、最後には広島と長崎に原爆を投下し、戦闘員ではない一般市民を、女性、子どもを含めて何十万と“虐殺”したのである。東京や大阪の中心地は無数の焼夷弾と爆弾で焦土と化した。
米国は、日本がほとんど手を上げかかっていたのに、日本本土の上陸作戦を敢行すると50万人以上の米国将兵の戦死者が出るとして、広島と長崎に原爆を投下したのである。アメリカの将兵を守るためには日本人にいくら死者が出ようとかまわない、というのが当時の米国の為政者のとった方針であった。
金正恩は大陸間弾道ミサイルの開発、改良をすすめ、米国を射程の範囲に入れようとしている。核兵器の開発もすすめ、その小型化もすすめ、ミサイルに搭載可能な段階に到達しようとしている、と言われている。そして、ミサイルも発射場所をいろいろと変更し、多様な場所から打てることを示そうとしている。つまり、発射場所を特定しにくいようにして敵からの攻撃を避け、米国や日本に向けていつでもミサイルを撃ち込めることを誇示したいようだ。潜水艦の開発もその一環である。そして、この状況に対して日本のマスコミや評論家は恐れおののくばかりに見える。
北朝鮮から流れてくる映像情報をマスコミは垂れ流して、一般日本人に恐怖心を植え付けているようにしか見えない。私が怖れていることは、北朝鮮が核弾頭を搭載したミサイルの発射基地を多様化することが米国に対する脅しになり日本や韓国に対する脅しになると単細胞的に考えてしかいないように見えることである。
が、この考えは危険きわまりないものである。米国は太平洋戦争において日本全域に焦土作戦を敢行した国である。どこからミサイルが飛んでくるのか分からなければ、可能性のある場所はすべて攻撃するというのが米国の立場であろう。北朝鮮は面積的にも日本と同様にひじょうに小さな国である。戦術核を使えば5、6発でほぼ国土の全域が使用不能におちいる。米国が日本に対して太平洋戦争で行なったように、北朝鮮に焦土作戦(かならずしも焼夷弾やナパーム弾を用いることを意味しない)を展開することはあり得ることである。その場合、北朝鮮人民の被害は甚大なものとなる。
金正恩のやり方は、日本と韓国を脅して(人質にとって)、米国と渡り合おうということであろうが、無数の北朝鮮人民の命を危険にさらしていることになる。自国は世界の反対を無視して核開発、ミサイル開発を続け、周辺国の“善意”は利用し、信用できるものと思いこんでいるようである。しかし、米国は北朝鮮が期待しているほど“甘い”国ではない。
北朝鮮が一発でもミサイルを撃ち込めば、北朝鮮のありとあらゆる場所にミサイルの雨が降るだろう。なぜなら、米国の大統領なら、トランプ大統領でなくても、自国(同盟国の日本と韓国も含んでいると考えておきたい。両国の米軍基地には米国の軍人だけではなくその家族もいる)にミサイルを撃ち込んでくる国に容赦はしない。米国は自国民を守るためには北朝鮮の一般国民に多大の犠牲が出てもかまわないと考えるだろう。それが米国のやり方である。
日本のマスコミや評論家に今もっとも必要なことは、北朝鮮から入ってくる情報を垂れ流すのではなく、北朝鮮国民の命が危険にさらされているということを声を大にして言うことである。一般の日本人を脅すのではなく、北朝鮮国民とその関係者(シンパも含めて)に“忠告する(脅す)”のである。
米国にとっても北朝鮮に対して軍事戦略論的にも戦争をしないで勝つことが最良である。日本国内には北朝鮮シンパが多数いるとされている。マスコミの中にもシンパがまぎれ込んでいる可能性がある。彼らは無意識的にかもしれないが日本や米国の善意によりかかり、その恐ろしい“最終決断”を考えることを避けているようにみえる。日本は甘いかもしれないが米国はあまくはない。
NHKが太平洋戦争中の米国の空爆に関して『なぜ日本は焼き尽くされたのか』という番組を今夏放映した。太平洋戦争において米国将兵の被害を最小限におさえ、戦争をできるかぎり早く終わらせるために、また、米国空軍の地位を確立するために一般市民の甚大な被害は無視するという形で、米国空軍は容赦なく主要都市を含む60以上の日本の都市に焼夷弾を投下し続けた。そして、米国内で焼夷弾攻撃の非人道性が問題となりはじめたとき、原爆を広島と長崎に投下し日本の降伏に至らせた、という形で米国の空爆、焼夷弾攻撃を総括し、米国の当時の空爆の非人道性と戦争の悲惨さを伝えていた。
NHKのこの番組の製作意図は、表面的には簡単に理解できるが、北朝鮮が核開発とミサイル開発に突き進むなかで、なにか隠された意図があるのだろうか、とも考えた。勘ぐれば、北朝鮮情勢が緊迫度を増すなか一般日本国民に対する脅し、米国への非難である(もし、これが正しければ北朝鮮側を利する行為であり、制作者は非難されなければならない)。が、さらに、勘ぐれば、北朝鮮(人民)とそのシンパに対する脅しである(これは私の勘ぐり過ぎであろう。が、もし、そうなら私は制作者に拍手を送りたい。今、日本の政府やマスコミにいちばん欠けている姿勢である。ただし、政府が自ら行なう場合には言い方がある)。この番組の制作者のバックグラウンドには興味はあるが、それはともかく、この番組を見て北朝鮮側は恐怖しなければならない。
戦争ができない日本がとれる最良の軍事戦略は北朝鮮側がみずからその体制を変えるようにもって行くことである。あまり、露骨に書くことは控えるがそのヒントはこのNHK番組の中にある。
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※以上が、昨年9月4日に書いたブログである。私がここで「脅す」という言葉を使っているのは、それが「北朝鮮の核問題」を解決する最良の手段だと思われるからである。私は戦後生まれであるが、上記のブログの筆致で分かるように私は米国が太平洋戦争で日本に対して行なった蛮行を“容認”してはいないし、北朝鮮指導層の悪政、非道を(日本の大多数のマスコミ、ジャーナリストのように)看過していない。しかし、今は米国とともに北朝鮮の完全なる非核化を断行する時である。
北朝鮮問題に関しては、昨年、上記のブログに続けて、「北朝鮮問題」と「北朝鮮問題3」を書いています。参照してください。 (2018年5月30日記)