シュムメトリア(symmetria)はいま私たちが用いるシンメトリー(symmetry)の語源にあたります。シンメトリーは現在「対称」の意味で用いられていますが、シュムメトリアはもっと広い意味を持っていました。ウィトルウィウスの言葉によればそれは「建物の肢体そのものより生じる工合よき一致であり、個々の部分から全体の姿にいたるまでが一定の部分に照応すること」*01ということになります。つまりある数値によって全体が割り切れること、いいかえれば、物事を構成する基本単位である数値を見つけ出し、その単位の組み合わせによって物事を造形するということです。これは紀元前6世紀頃のギリシアの賢人ピュタゴラスが発見し、展開した考え方に基づいていました。その数値は宇宙の秩序であり、〈神〉の造形の原理を示すもの、と考えられたのです。
建築物を構成する各パーツがシュムメトリアに適合していること-すなわちある基本となる“数”の比例によって構成されていること。それに加えそれらがリズミカルに組み合わされ、配置されることによって生まれる美しい形姿の原理、それをウィトルウィウスはエウリュトミア(eurythmia)と呼んだのです。エウリュトミアはリズム(rhythm)の語源にあたりますが、美しい形姿=構図には視覚的によいリズム(秩序)をもった配置が不可欠である、ということ。その美しい構図をつくる“数”的原理がシュムメトリアであり、そのリズムを持った配置がエウリュトミアで、この二つが造形物の“美”を生み出す原理である、というのです。
すなわち〈神〉の造形の原理は、〈建築〉の〈美〉を造形する原理でもあったのです。

ローマ/パンテオン 118~128AD
ウィトルウィウスの建築論をまさに体現した空間といえるでしょう。
*01:ウィトルーウィウス建築書/ウィトルーウィウス/森田慶一訳 東海大学出版会 1979.09.28