ミエが教室の外へ歩いて行くキム・チョルの背中を見ていると、
ドアから何人かの男子が飛び込んで来た。
「おい!6組行こーぜ!」「ワハハ!」「おい!ちょっ・・」
メガネの男子は、チョルを友人と間違え肩を叩いたようだった。
見上げて真実を知った途端、ヒッと息を飲む。
「ご、ごめん・・」 誰だ?他のクラス?
大丈夫、と言おうと思ったチョルだったが、
そのうんざりとした表情に恐怖を感じたのか、メガネの男子はより一層ビビってしまった。
ヒイッ 怒ってる!
「ほ、本当にごめん!つい間違えちゃって・・友達だと思って・・その・・」
バッ!
小さく「ごめん、ごめん」と繰り返す彼と自分達を、
クラス中の人間が遠巻きに見ていた。
メガネの男子は冷や汗を垂らしながら、下を向いて謝罪を繰り返す。
見えない、矢のような視線が後ろからチョルを刺す。
チョルは拳をグッと握り締めた。
何もしていないのに、いつも見えないそれに押し潰される。
心が苛立ち、怒りが拳に宿って行く———・・・。
その時だった。
「おーーーっと!」
突然チョルにぶつかって来たミエは、明るくハキハキとチョルに謝る。
「あっ!ごめん!ミスった!」
マイミステ〜イク!
ミエは軽くそう言って、そのまま廊下へと消えて行く。
トイレ〜
「・・・・」
いつの間にかチョルの怒りは消え去り、
そのままチョルも教室を出て行く。
教室に残った生徒たちは、再びザワザワと噂話を始めるのだった。
おいお前何回謝んだよ 俺もよく分かんなくて・・ ふぅ〜
<大したことじゃないことで>
「ミエー・・」
トイレまでついて来たチヘが、心配そうにミエに聞く。
「まさか大魔王、あとで怒ったりしないよね?」
「それは無・・いや、ええ!?まさか〜!
そう言って、先ほどの光景を思い出す。
ごめん、ごめんとくどいくらいに謝る男子生徒の前で、みるみる歪んで行くチョルの表情・・。
「チョルが何したっていうのさ・・」
小さくそう呟いたミエに、チヘが「ん?」と聞いたが、ミエは首を横に振った。
そして先ほどチョルにぶつかった衝撃で、クリームパンが悲しいことになってしまっていた。
「あっポケットに入れてたら・・ぐしゃぐしゃに・・」
「ポケットじゃなく引き出しに入れなー」
チヘのツッコミはごもっとも。
どうやら今日はあまりツイてないらしい———・・。
<はい?なんですか?>
ピーッ、と笛が鳴り、ミエがハードルに向かって走って行く。
彼女は見事なジャンプを見せた。おお、と周りで声が上がる。
ダダダダ・・
一方こちらはキム・チョル。
彼は素晴らしい跳躍で、ヒョイとハードルを余裕で飛び越えた。
おおっ!
その勇姿に、主に女子からの声が上がる。
体育の時間のチョルは、かっこいいのだ。
体育教師も思わず「キム・チョル、いいぞ!」と声を上げる。
チッ身体能力では勝ち目ないか
ミエはそんなチョルを見て、かっこいいと思うよりも悔しかった。
注目を浴びるチョルは、小さくなってその視線の矢から外れようと走って行く。
[注目されるのは嫌だけど、内申がかかっているから・・]
そんなわけで、今日も頑張るチョルだった・・。
体育が終わり、ミエが片付けをしている時だった。
「おい、ファン・ミエ」
声を掛けて来たのは、何かと絡んでくる男子だった。
「お前大魔王が気になるんだろ?
「え?」
首を傾げるミエに向かって、男子は尚も追及してくる。
「チョルとミエだからちょっかい出してんのか?くっそウケる」
「は?何言ってんの?!私がいつそんなことしたよ!?」
「なっ・・お前確かにさっき・・」
「何言ってんの?見間違いじゃない?」
ミエはそう言って、さっさと行ってしまった。
「ファン・ミエがどーかした?」
手洗い場に居たチョルの耳に、ミエの名前が入って来た。
「?」
が、よく分からなかったので、チョルはそのままにしてその場を去ったのだった。
第二十七話③でした。
ミエちゃん、チョルを助けましたね・・
怖くないんだよ、悪くないんだよ、と自分の体を使ってみんなに示して行くの、優しいですね。
そして絡んできた男子、中学生男子ってこんな感じだったよな〜と懐かしかったです
第二十七話④に続きます
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