北野進の活動日記

志賀原発の廃炉に向けた取り組みや珠洲の情報、ときにはうちの庭の様子も紹介。

経団連中西会長の狙いは?

2019-01-09 | 脱原発

        北陸中日新聞(2019.1.5)

経団連の中西宏明会長(日立製作所会長)の年頭の会見が波紋を広げている。
インタビューの生映像は見つからないが、各社の報道内容から概ね下記のような発言だったようだ。

東日本大震災から八年がたとうとしているが東日本の原発は再稼働していない。
お客様が利益を上げられてない商売でベンダー(提供企業)が利益を上げるのは難しい。
どうするか真剣に一般公開の討論をするべきだと思う。
国民が反対するものをエネルギー業者やベンダーが無理やりつくるということは民主国家ではない。


一見、この間の原子力政策、特に3.11後の安倍政権の民意無視の原発再稼働・原発回帰路線を批判しているようにも思える。
上記の記事の配信元である東京新聞は政権との同調姿勢からの転換とし、経済欄では「経団連と足並みそろえて原発再稼働を進めてきた安倍政権。「パートナー」のはずの経団連からも見直し論が出てきたことで、コスト高騰で競争力の失われた原発を無理に進めようとする政策の矛盾が鮮明になっている」とし、今回の発言は「政府にエネルギー政策の見直しを迫っている」とした(こちらから)
元外交官の天木直人氏は「言うべきことは言う、経団連会長としてあるべき姿」と評価し、「値千金」とまで述べている(こちらから)

一方、日刊ゲンダイは「脱原発とも取れる発言は驚きをもって受け止められた」としつつも、元経産省官僚の古賀茂明氏の見解を踏まえ、利権のための原発推進は止まらないという(こちらから)
 
さて、私の受け止め方だが、経団連会長として、さらには原発メーカー日立の会長として「政府に原子力政策の見直しを迫っている」のはその通りだと思うが、それは決して「国民の声を聞いて脱原発へ舵を切れ」という趣旨ではなく、基本的にはリスク高、コスト高であろうと原発は必要であり、そのためにも政府はもっと金を出せ、関与を強めよ、そのためにももっと積極的に国民を説得しろという意味での「政策転換」を迫る脅しだろうと思う。

その理由として、まず経団連は、原発はコストが高かろうが事故のリスクがあろうが日本の温暖化対策として不可欠との凝り固まった認識に変化はないということがあげられる。

定例記者会見における中西会長発言要旨(2018年12月17日)
【地球温暖化】
現行技術を前提とすれば、原子力なくしてパリ協定に基づく日本の削減目標を達成することは不可能だろう。長期での大幅削減を見据えれば、原発のリプレース・新増設が必須であることは客観的に見て当然である。他方、原発の問題は国民の理解なしでは進められないことも事実である。難しい課題ではあるが、政府には引き続き、総合的な観点から舵取りをしていただきたい。


元日のインタビューのわずか15日前の発言である。この基本的認識が変わったのではなく、温暖化対策には原発のリプレースや新増設が必須であり、国民の理解を得よと安倍政権を「激励」しているのである。

さらに6日後の今月7日のインタビューでも次のように発言している。

経済三団体主催新年祝賀パーティ後の共同会見における中西会長発言要旨(1月7日)
【安倍政権への要望】
安倍政権は、短期的には景気対策など様々な策を迅速に講じており、「決められる内閣」である。他方、長期的な視野に立った政策立案については議論がまだ不十分である。エネルギー問題がその典型だ。日本のエネルギーはコストが高く、外国に過度に依存しており、温室効果ガスの排出量も多い。将来的に重い課題になることは明らかであるが、議論が足りていない。経済界からも積極的に議論を仕掛けていく。


「原発回帰」とも言われる安倍政権のエネルギー政策だが、中西会長は決してその内容には満足していない。東日本の原発、つまり日立が建設した沸騰水型の原発の再稼働はすすんでいない。志賀原発もその中の一つだ。それどころか官邸主導の原発輸出政策につき合わされ、イギリスで大損しかけたのだから当然だろう。

私は冒頭の年頭のインタビュー中の
「お客様が利益を上げられてない商売でベンダー(提供企業)が利益を上げるのは難しい」
という発言がポイントではないかと思う。
ここでいう「お客様」とは電力消費者ではなく、原発メーカー(ベンダー)にとってのお客様である電力会社のことだ。
原発は高コストなのでもはや電力会社は利益を上げられない。だけど原発は温暖化対策で必須というのが経団連の立場だ。

さて、どうするか。
電力会社が電力市場の自由化の中でも高コストの原発の電気を売り続けるには、原発の電気を別枠にして電力会社の利益を確保できる制度を作る、あるいはさらに踏み込んで、原子力事業を民間の電力会社から切り離し、原子力公社のような組織を設立し、国策民営から国策国営に近づけてくいくのも一案だろう。
原発メーカーにとっては、原発プラントの納入先は民間企業であろうと国であろうと構わない、売れればいいのである。
原発輸出にもさらに手厚い政府支援策を設けるよう求めてくるかもしれない。何といってもアベノミクスの成長戦略の柱の一つなのだから。
「経済界からも(安倍政権に対して)積極的に議論を仕掛けていく」という発言、というか決意表明は要注意である。

巨大な原発利権を、「公開の討論だ」「民主国家だ」などといった心にもない言葉で手放すとは私にはとても思えない。

もっとも、「高リスク、高コストだけど温暖化対策で必須」という中西会長の認識、あるいは願望といってもいいと思うが、脱原発に向かう世界の潮流から大きくずれていることは紛れもない事実である。
経団連がみずから脱原発に向かう年になるとは思わない。
しかし、高リスク、高コストの原発の矛盾がより鮮明となる年になることは間違いない。
私たちが経団連を脱原発へと追い込む年にしなければいけない。


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