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1991簸川平野の築地松調査→風土条件にかなった歴史景観は環境資源として共有される

2017年04月09日 | studywork

1991「簸川平野を事例とした居住空間整備志向の研究」集落空間整備に見られる保守性 日本建築学会東北大会
                             
1 はじめに 
 歴史的な居住景観は、立地する地域の風土条件の規定とそこで暮らす人々の共同体的社会への関心によって空間整備手法に共通性が形成され、その共通性が時代を越え空間整備指針として人々に了解されてきた結果である。風土条件が厳しく、共同体的社会への関心が高いほど、人々は空間整備手法を共通とし、居住景観は特徴的となる。居住景観の『安定』である。
 一方、建築生産技術の発展は、風土条件の規定にかかわらず快適な室内空間の確保に貢献し、多様な居住文化情報の氾濫は、景観の共通性にこだわらない空間表現を示唆した。この結果、歴史景観に混乱が生じ始めた。居住景観の「遷

移」である。  
    居住景観の安定=風土条件の規定・共同体的社会への関心

    居住景観の遷移= 建築生産技術の発展・居住文化情報の氾濫    
 これに対し、住民と行政の両者から新たな安定を目指した動きが、例えば歴史景観保全運動、景観整備指針の策定、農村型リリゾートによる村づくりなど、活発となっている。これらは、歴史景観のもつ文化性に着目した点、遷移の活力を活かした町づくりである点、人々の暮しと生活環境を優先としている点で評価されるが、居住空間整備手法が人々に共通の了解となるためには、整備主体である住民の意向が充分に反映されねばならない。

 本研究は、以上の観点に立ち、風土条件から居住空間の安定を図るため築地松を屋敷囲いとする特徴的な居住景観構成の簸川平野を事例として、その維持管理に大変な労力と費用を要する築地松の居住景観をどのように認識し、新しい建築生産技術と住様式を反映した居住空間の遷移に対しどのような空間整備志向をもっているかを、集落景観・屋敷空間・住居空間の3点から考察する。
 本稿はその第1稿として、集落の立地条件と集落景観の特性との関係、住民の集落景観整備志向について報告する。

 なお調査は、1990年実施の、築地松の特徴的な景観を示す民家15戸を対象とした平面構成・断面構成の実測調査、ならびに空間利用・空間評価の聞き取り調査、および斐川町内5集落の16才以上を対象とした景観認識と住志向に関するアンケート調査(有効回収395)である。

2 立地条件条件に規定される集落景観 
 簸川平野は斐伊川の造成によっており、斐伊川上流に位置する平野西側の高度が高く、宍道湖に近い斐伊川下流側の高度が低い。集落の立地する高度は、上流側の富村・北島付近で高度10m前後、その東側、今在家あたりで6m前後、さらに東に進んだ福富あたりで3m前後、宍道湖にもっとも近い碇下付近で1m弱である。
 高度と道路・住居群・屋敷の構成を整理すると、
①高度の高い簸川平野西部では、住居が立地する自然堤防は塊状に広がっており、道路は南西・東北方向の道路を主に輻輳する。住居はこの道路を基準に集居となり塊村を呈す。
②高度がやや低くなる簸川平野中西部では、自然堤防は線状に幅を狭め、道路はおおむね東西方向に蛇行する。住居はこの道路を基準に集居配列し、列村を呈す。また、この道路に直交する道路に立地した散居が見られ始める。
③さらに高度が低くなる簸川平野中東部では、自然堤防は線状に小さく分散し、これらを結ぶおおむね東西方向の道路とこれに直交する道路の構成となる。住居は、前者の道路には比較的連続した配列、後者の道路には散居の配列となる。
④もっとも高度が低くなる簸川平野東部では、自然堤防は形成されておらず、道路は東西方向、南北方向の格子状をとる。住居は、散在し典型的な散居を呈する。

 高度によって以上のような景観構成に違いが見られるが、しかし、景観構成単位である屋敷は、
⑤西側から北側の築地松を主とする屋敷囲い構成と、
⑥南面志向の主屋と附属屋の配置構成においてはいずれの立地でも同様の空間構成手法をとる。
 すなわち、冬期の西風から安定した敷地空間を築地松と屋敷囲いによって形成、このことによって主屋を南面とし快適な居住空間を確保する空間構成が景観の基本であり、簸川平野西部の高位側では自然堤防を活用した立地を反映して集居に、東部の低位側では平坦な低地立地を反映して散居となる。

3 景観整備における保守性
「築地松と茅葺民家の景観について」:現在も築地松を保有する人々は、築地松維持の難しさを実感しながらも築地松保全に努力を表明(42%)、すでに少なくなった茅葺民家についても築地松と茅葺民家の景観の保全を希望し(25%)、歴史文化遺産に対する保守性を示す。
 以前、築地松があったが今は保有しない人々は、あきらめるが5割強をしめ、一度、松を失った場合は積極保全のために相当のエネルギーが必要であることを推測させるが、一方の保全に努力も5割弱と決して少なくない。また、昔から築地松を持たない人々は築地松と茅葺民家の景観保全に67%、築地松の保全22%であり、築地松の居住景観が広く人々の生活環境要素として位置づいていることを示す。

 「築地松のある屋敷外観」について (al =~24才、a2=~44才、a3=~64才、a4=65才以上):1積極的な保全志向については、a2では40%、a1 ・ 46%、a3 ・ 49%と半数に近い支持があり、a4にいたっては67%をしめる高率となっている。
 2伝統性を尊重しながら新しい技術をとする志向と1積極保全志向を加えると、a1で約2/3の支持となり、以下年代をおって保全志向が高まり、a4では約9割とほぼ全員の支持となっている。つまり、全世代にわたり築地松のある屋敷外観の存続が希望されている。

 「築地松と散居の景観保全の進め方について」:2行政と住民の協力には40% (a3世代)~59% (al世代)と半数をしめ、行政と住民の二人三脚で歴史文化遺産の保全を進めようとする意向が高いことを示す。続いて、個々人が自発的、自主的に活動しようとする、1みんで保全に20% (al世代)~29% (a3世代)の回答があり、3行政一任18%の消極的な人も見られるが、総じて保全活動支持であり、築地松景観の保全志向を裏忖ける。
 すなわち、人々は、築地松の居住景観を町の歴史文化遺産として認識し、新しい技術に配慮しながら積極的な保全を支持、そのために住民・行政が協力しあおうとしており、総じて歴史景観に保守性を示す。

4 まとめ 

 松枯れや管理維持の困難さ、建築技術の発展にもかかわらず築地松の居住景観に保守性が志向されており、厳しい風土条件のもとで安定した住み方として人々に了解された歴史景観は、一方で生活環境の構成要素として認識され、環境資源として人々に共有されることを示す。すなわち、新しい建築技術、新しい住文化の移入による居住景観の遷移も、安定した歴史景観の保守のうえで成立する。

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