マスコミ等の論調では、黒田日銀のマイナス金利政策によって、円高になったという風な言説が多いが、それは一部正しいが、根本は誤っていると考えている。前のエントリーで書いたように、サマーズの言うような長期停滞状態secular stagnationに世界経済が陥っているならば、インフレ率が上がらない以上、自然利子率にマッチさせるためには、金利をゼロ以下にするしかないからだ。もっとも合理的な中央銀行であるECBがそれを最初に採用したのはもっともである。そして、今回日銀が追随したのに、円安ではなく円高になったのは、「マイナス金利にしたから」ではなく、次に述べるように、「マイナス幅が足りなかった」からだということを理解する必要がある。薬が足りなくて副作用だけが出た状態と見ていい。
マイナス金利レースでは、ECBが先頭を切り、次に日銀が追随した。金融緩和からの出口に出て行こうとしていたFRBは完全に周回遅れとなった。先頭を走っているつもりだったら、実は最下位だったということだ。これから、FRBは金利を元に戻して下げていくはずだ。この状況が明らかであるから、日米金利差から見ると、今回の日銀のマイナス金利程度では、今後のFRBの利下げに対しては、円安効果は限界がある。こう思って、私はイエレン演説前にドル円ショートを積んだのだが、そう考えたファンド筋も多かったことは、その後の値動きが証明している。
ということで、今後の成り行きはファンダメンタルズからすれば、FRBの利下げとECBや日銀のマイナス金利競争ということになる。ということで、自然利子率と合致したと市場がみなすまで、利下げ競争となって、円高も継続すると思う。ファンダメンタルズからはどこがドル円の底かはまだわからない。
ただ、このマイナス金利競争は、完全に経済学の教科書に存在しないシロモノで、本当の副作用がどこに生じるかは世界中の経済学者の誰にもわからない。まさに、世界経済を対象にした大実験の第二幕が開いたと言えよう(第一幕はQE競争)。
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