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ウイントン・マルサリス/シック・イン・ザ・サウス

2010年02月09日 21時48分41秒 | JAZZ
 ウィントン・マルサリスが1991年に発表した「ソウル・ジェスチャーズ・イン・サザン・ブルー三部作」の第1部にあたるアルバム。作品の系譜として見ると、「J MOOD」と「ライブ・アット・ブルース・アレイ」で完成を見たといってもいい新伝承派的な音楽から、89年の「ザ・マジェスティ・オブ・ザ・ブルース」でにわかに強まったブルース、ディキシー・ランド・ジャズ指向により大胆に推進させたアルバム群といえるかもしれない。なにしろこの三部作はたった1年で完結、その後の作品も私の聴く限り、この路線を迷うことなく突っ走っているようだから、早々とメインストリーム・ジャズを征服してしまった、この天才トランペッターは、もはや自らのルーツを確認する作業へと移行するくらいしかやることがなくなってしまったとも思えなくもない。もっとも、彼はこれら作品にほぼ平行してと「スタンダード・タイム」シリーズもやっていくことになるから、メインストリーム・ジャズ的な音楽はそちらの方で....みたいな意識もあったのかもしれないが。

 さて、本作の内容だがひとくちにいってブルースである。もちろんブルースといっても、そこはマルサリスがやるブルースだから、アーシーで泥臭いフィーリングが横溢していたり、情念がドロドロしていたりするような代物ではなく、非常に洗練されたものになっている。また、本作は三部作のしょっぱなであり、自らのバンドのブルース・フィーリングに、いささかの不安があったのか、ゲストにエルヴィン・ジョーンズとジョー・ヘンダーソンという大物を迎えているのが特徴だ。私はブルース・ロックは好きだが、どうもガチガチのブルースは苦手なので、本作の収録曲について、形容する言葉が余り思い浮かばなかったりするのだが(笑)、さすがにふたりの参加した2曲は、2人の超ベテランらしいオーラを醸し出していて聴き応えがある。特に2曲目のスロー・ブルースの「エルヴィーン」では、2人の持つ粘っこい重量感といかにもジャズ的なアーシーなセンスが不気味なまでに濃厚なブルース・フィーリングと感じさせて、それに感化されたのかマルサリスを筆頭に、かなり陶酔的な雰囲気のプレイとなっている。ラストの「L.C.オン・ザ・カット」は「エルヴィーン」に比べるといささかリラックスしているが、ほぼ同様のテンションある演奏となっている。こんなスローなプレイでこういう雰囲気を出せるエルヴィン・ジョーンズという人はやはり凄いドラマーだとつくづく思う。

 アルバム中盤に収録されたタイトル・トラックと「ソゥ・ディス・イズ・ジャス,HUH?」は、新伝承派風なスマートな趣を持った曲で、特に前者はトリッキーなリズムの仕掛けや鋭敏かつ推進力を感じさせるアンサンブルなど、この時期のマルサリスらしさが感じられる演奏になっている。後者は新伝承派とブルース的なものがほどよく溶け合ったような仕上がり、いずれにしてもこの2曲は従来の感覚でも十分に楽しめる作品といったところだろう。
 という訳で、実はここ2ヶ月ほど、私はこの三部作をかなりの頻度で聴いてるのだが、こうして聴き込んでいくとこの作品もなかなか良い。リアルタイムで聴いた頃は、その良さがさっぱり分からなかったのだが(私がマルサリスを見限るきっかけとなった作品群だし-笑い)、今聴くとマルサリスらしい生真面目な緊張感と洗練故にブルース的なアクをけっこう中和していて、けっこうBGM的に楽しめたりするのである。
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