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今日の筆洗

2024年03月01日 | Weblog
いい男だ。1987年、石川県の寺越友枝さんは息子の武志さんと北朝鮮で24年ぶりに再会した際、そう思ったという▼息子は13歳の時、志賀町から叔父2人と漁に出て日本海で行方不明に。87年に叔父の1人から届いた手紙で生存が分かり実現した、平壌での面会である▼記憶の中の息子はクリクリの丸刈りの中学生で、野球のバットが当たってできた傷が額にある。現れた中年男性に傷を見つけ確信し、涙を流してからまじまじと眺めて抱いた冒頭の感想。自著で「親が言うのはおかしいかもしれませんが」と断り、ほれぼれしたと明かしている。母親らしい感慨とも思える▼友枝さんが92歳で亡くなった。訪朝は66回。武志さんの一時帰国も2002年に実現した。遭難し北朝鮮に助けられたと拉致を否定する息子を信じるとして拉致被害者の家族会を離れたが、葛藤はあった▼訪朝時にこっそり真相を尋ねると黙りこむ息子。異国で一定の地位と家庭を得ている。連れ戻したいが、自分が「拉致だ。返せ」と言えばどうなるか。思いをのみこみ、通えば会える。監視がつき、全て本音で語りあえないとしても▼家族会を離れる前、横田めぐみさんの母早紀江さんがこう言ったという。「友枝さんが決めていいんですよ。信じる道を。武志さんの母親は一人だけですから」。息子のために耐え、愛情を注いだ母。安らかにと祈る。