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今日の筆洗

2022年11月15日 | Weblog
「奥山に紅葉ふみわけ鳴く鹿(しか)の声きく時ぞ秋はかなしき」。百人一首にもある有名な歌だが鹿はなぜ鳴いているのか▼歌の世界では雄鹿が近くにいない雌鹿を呼び、あるいは探しているということになっている。離れ離れにでもなったのだろうか。その声がむなしく、とりわけ秋には悲しく聞こえるというのである▼なるほど野生の鹿の声はややかん高く、寂しい。別の意味もあるらしい。鳴き声を人の言葉に置き換える、「聞きなし」。鹿の声にも昔から「聞きなし」がある。「カイロ」「カイロー」だそうだ。鹿は古里へ「帰ろう帰ろう」と鳴いている▼長い間、鳴き続けている。一九七七年十一月十五日、当時中学一年だった横田めぐみさんが北朝鮮によって連れ去られ、四十五年になった。四十五年の血の出るような声が実らない▼鹿の角は一年で生え替わると聞く。家族や関係者の悲しみの角はどうだろう。けっして小さくなることはなかった。四十五年の間、ただただ大きく、重くなったはずである。進展が見られない▼お母さんの早紀江さんがめぐみさんをある場所へ連れて行きたいと語っていた。連れ去られた現場だそうだ。そこから、もう一度人生を歩み直させてあげたい。そう願っている。十三歳から五十八歳。人生の中心ともいえる、四十五年が奪われた。国中の鹿の声を合わせたい。もっと高く、もっと高く。