MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『グッバイ、サマー』

2017-02-01 00:15:28 | goo映画レビュー

原題:『Microbe et Gasoil
監督:ミシェル・ゴンドリー
脚本:ミシェル・ゴンドリー
撮影:ロラン・ブルネ
出演:アンジュ・ダルジャン/テオフィル・バケ/ディアーヌ・ベニエ/オドレイ・トトゥ
2015年/フランス

「血」の意味の変化について

 主人公のダニエルがベッドの中でグズグズしている冒頭だけを見ると、その美しさで性別がよく分からないのであるが、実はそこから既に本作のテーマが示されている。
 ダニエルのクラスに転校してきたテオは目立ちたがり屋で、スクラップを扱っている父親の仕事の影響から機械には詳しく様々な音を奏でる自転車を乗り回しており、ダニエルと彼の弟がプレイしていたサッカーの実況をテレビと同様に再現してしまう。
 テオの勧めもあってダニエルが画廊に作品を見せに行ったら個展を開ける運びになるのであるが、客はテオを除いて誰も来ることはなかった。しかしテオはまるで個展が盛況であるかのように振る舞うのである。
 スクラップを集めてテオが組み立てた車を使って2人は旅に出ようと計画するのだが、車検に通らなかったために小屋のように見せることが出来るように仕掛けて出発する。旅先で車内で眠ろうとするとある男性に見つかり夕食をごちそうになるのだが、素性が分からない男が怖くなって逃げ出す。しかしその男は歯科医なのである。あるいは髪を切ろうと迷い込んで、日本人が働いている風俗店から走って逃げようと試みたダニエルを捕まえたギャングのような輩たちが、昼間はアメリカンフットボールの選手たちなのである。
 小学生を対象にした絵画コンテストに年齢を偽ってダニエルは出場し、優勝景品であるリモコン飛行機の手に入れようとする。結果は2位だったが、2位の景品はパリ行きの航空券だった。しかしテオもダニエルも飛行機に乗るのは初めてで、ダニエルは恐怖で精神的におかしくなってしまい、自分が列車に乗っているのに飛行機がバックして飛んでいるような錯覚に陥る。
 このように小さな模型の飛行機が大きくなって乗り込むことになるなど、本作は「メタモルフォーゼ(変身)」の連なりなのである。そしてラストはダニエルはテオの悪口を言った同級生をテオに教わった通りにぶん殴る。殴られた同級生が鼻から流している血を見る時、私たちは冒頭のシーンをもう一度思い出さなければならない。ベッドから起きてトイレに行ったダニエルは便器についていた血を見ていたのである。それは観客にダニエルが女の子であるように思わせるための監督が仕組んだミスリードだったはずで、つまり女性の「血」から男らしさが生み出した「血」を描くことで、「精通」まじかのダニエルの成長を現したのである。このような巧みな演出をされた映像こそ映画と呼ばれるもののはずなのだが、残念ながら高く評価されているように見えない。


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