治しやすいところから治す--発達障害への提言

花風社・浅見淳子のブログ
発達障害の人たちが
少しでもラクになる方法を考える場です。

不良債権は雇えない

2011-03-05 09:25:33 | 日記
横浜障害児を守る連絡協議会による
松為信雄先生の講演会に行ってきました。
発達障害者の就労のお勉強です。

実は松為先生の講演を聴くのは二度目。
この前はもう十年近く前、まだ自閉っ子シリーズが始まっていなかったころのことだと思います。
LD親の会の講演会でした。

そのときに強烈な印象に残った一言。

「不良債権みたいな子を育てても、企業が雇うわけがない」

昨日の講演でも、終わったあとのお食事のとき松為先生に「たしか当時こんなことをおっしゃったと思いますが・・・」とお話したら

「わはははは(僕がいかにも言いそう)」みたいな感じでした。

最初にそれを聞いたころの私は、まだ「自閉っ子についてわかってもらおう時代」の黎明期。
強烈な衝撃を受けましたが、反発は感じなかったな。
「そうだろうなあ」と思いました。

松為先生はかつて労働省で障害者雇用の法整備にかかわり、現在は大学教授ですが
驚くほどリアルなお話の連続でした。

就労は十八歳で始まるのではない。
企業が教えてくれるのは職務だけ。
その土台を作るのはそれまでの十八年(+α)。

とにかく「学ぶこと」ができる子に育てろ。

という至極まっとうなご意見。

社会で役割を持つのが人間の尊厳であり
それは等しく障害者にも与えられているはずの権利である。

と100%納得のご意見が早口のトークでがんがん繰り出されるのでした。

しかもそれを聴いている親御さんの反応がおしなべてポジティブ。
皆さん「元気をもらいました!」とニコニコ笑顔で帰られます。
アンケートの結果も上々だったようです。

障害者をたくさん雇用している経営者の意見なども披露されましたが
やはり身辺自立は大事。
ご挨拶はもう、いろはの「い」、って感じでした。

ここで一言。
企業がご挨拶を必要としているかどうか、決めるのは私じゃないですよ。
私は報道する立場。
「誰々はこうこう言っていますよ」と伝える立場です。

私自身は、ご挨拶は重視していなかった。これはたしか。
うちのマンションにお掃除に来る人の中にも、「おはようございます」と話しかけても返事もしない人がいます。もしかしたらなんかの障害があるのかもしれません。たんに、挨拶が嫌いなのかもしれません。
でもそれはそれでいいと思っています。掃除さえしてくれたらね。
その人はご挨拶しにうちのマンションに来ているわけじゃなく、お掃除しに来ているわけですから。

でも私が自分の客層を考えると
障害者雇用に真剣に取り組んでいる企業の担当者たちが「ご挨拶が大事」と言うのを耳にしたら
それをきちんと伝えるのが私の務めです。
大事なのは私の意見じゃありません。読者の皆さんが知りたいのは、実際に雇用する立場の人の意見です。でしょ?

で、私自身は「自閉っ子と未来への希望」に書いたように

松為先生がおっしゃった「社会に変わってもらうのを待っていたら何十年もかかる」という結論に
この十年の年月でようやくたどりついたのだと思います。

まあ一方で松為先生はもちろん企業への働きかけも(おそらく同じようにがんがんと)なさっているのですけど。

親にがんがん正論を投げかけてくる人は
企業にもがんがんまっとうなことを言ってくれたりしますからね。

企業は企業で果たすべきことがある。
でもそこまで行ける土台を作るのは親と学校の仕事。
たとえ就労がかなわなくても、施設に入るのでも、そこも社会。そこでも何かの役割を持つ。
人としての土台ができていなくてはいけない。

ということのようです。

ところで、私がiPhoneとiPadでぽちぽちメモを取っていたら、隣に座っていた方が
「もしかして浅見さんですか?」と。

「そうです」と言ったら「いつも読んでます。中田大地君の本、本当に参考になりました」と。

支援校に通う重度判定の自閉っ子のお嬢さんがいるママだそうです。
「役割を持たせる」ことを今から大事にしていて、学校から帰ってきたらきちんとお手伝いの時間にしている。
そしてお手伝いをしたら、もちろんごほうび。
松為先生のお話の中にも、お手伝いの大切さは出てきました。
写真を見せていただきました。かわいいお嬢さんでした。

終わったあとはまた別の方に「大地君が二冊の本の間に成長していたのがうれしいです。よその子でも、成長はうれしいものです」とあたたかな言葉をかけていただきました。
寒い日でしたが、心がぽかぽかになりました。

写真は会場で買った授産品のペンケース。
iPad用のペンをなくさないようにこれに入れておこうと思います。
いいものを見つけました。

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