スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

馬場へのショルダースルー&スピノザ思想の矛盾

2017-01-28 19:18:54 | NOAH
 前年暮れの世界最強タッグ決定リーグ戦の最終戦でハンセンの乱入があり,試合後の乱闘の最中にハンセンの流血がありました。不沈艦は翌年の1月のシリーズに特別参加。初戦で阿修羅・原を一蹴。迎えた最終戦が馬場とハンセンの初対決でした。シリーズの間にふたりはタッグ戦で戦っていたかもしれませんが,どのようなスタイルでプロレスをするのかはよく分かっていなかった可能性があります。
 馬場はショルダースルーを掛けられたら,受けるか拒否するかの二択であったと僕は解します。このとき,拒否するという選択肢があることは仕掛けるハンセンも理解していた筈です。拒否された場合,攻守が交代します。つまりショルダースルーという技は,スムーズに攻守交代するための技という一面があり,ハンセンはそれを狙って仕掛けた可能性も否定しきれないと僕は思うのです。
 プロレスファンなら知っているでしょうが,ショルダースルーは,仕掛けられた場合に受けも切り返しもせず,絶対に拒否するという選手が存在します。少なくとも当時は存在しました。ハンセンと馬場はそこまで多くの対戦をしていませんでしたから,そもそも馬場がショルダースルーを受ける選手であるかをハンセンは知らなかったかもしれません。というのも,これも一般的にいいますが,ショルダースルーを必ず拒否する選手は,ほぼ馬場のような大型選手に限定されるからです。なのでこのときハンセンは,拒否されることを前提にショルダースルーを出したのかもしれないのです。
 馬場がそれを拒否せずに受けたのは,受けることができるということを知らしめるためであったかもしれません。それはもちろん,ハンセンに対して知らしめるという意味であると同時に,ファンに対して知らしめるという意味でもあります。現にこのとき,馬場のプロレススタイルをよく知らないファンも多く観戦していたと思われますから,あえてショルダースルーを受けてみせるということに意味があったと考えられるからです。
 もちろん真相は分かりません。普通のプロレスの攻防のワンシーンにすぎなかったかもしれません。でも僕にとってはあれはあの試合の中の特別なシーンのひとつなのです。

 もうひとつ,僕にはとても重大に思える点が含まれています。
 スピノザは第四部付録第二〇項で,両者というのを男と女,すなわち一方が男で他方が女に限定した上で,その両者の愛amorが精神の自由に基づくなら,結婚は理性ratioと一致することが確実だといっています。ここで精神の自由といわれているのは,スピノザの思想のうちにある広い意味での人間的自由ではなく,能動的自由に限定されなければなりません。理性というのは人間が十全な原因causa adaequataとなった場合の認識,いい換えれば人間による能動的な認識のことを意味するので,この精神の自由を能動的自由と解さなければ、それが理性と一致することには絶対にならないからです。
                                     
 したがってこれが成立するためには,男も女も同じように能動的であり得る,いい換えるなら理性的であり得るということが前提されていなければなりません。仮に男だけが精神の能動actio Mentisを発揮することができたり,逆に女だけが精神の能動を発揮することができるのだとすれば,男と女に限定された両者の愛が精神の自由に基づくということは不可能であるからです。つまりスピノザはここでこのように述べるときには,精神の能動を発揮できるか否かについて,男であるか女であるかは無関係であると暗黙裡に考えているのです。
 ところが,『国家論Tractatus Politicus』の中には,明らかにこの前提に反すると思われる部分が含まれています。
 『国家論』はスピノザの死によって中途で終了してしまいました。ですがその最後の部分,第一一章第四節で,民主主義政治に女が参加するべきかどうかを検討するとき,スピノザはそれに否定的な見解を示しています。そしてその理由を,女は本性の上で男と同等の権利を有していないからだと説明しています。
 スピノザの政治論で権利jusといわれるとき,それは哲学的な意味における力potentiaを意味します。現実的に存在する人間にとっての力というのは,能動つまり現実的に存在する人間の理性を意味します。これは第四部定義八から明らかです。したがってスピノザはここでは,女は理性的であることができないと主張しているに等しいのです。そしてこの矛盾はおそらく解消することが不可能です。
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